−現在の事業は。
我々は移動体通信サービスと固定通信サービスの双方を、個人・法人のお客様に提供する総合通信会社です。
2014年7月にKDDIと住友商事は、政府機関であるミャンマー郵電(MPT)とミャンマーでの通信事業に関わる契約を締結し、同年9月から事業を開始しました。ミャンマーの政府機関とのジョイントオペレーションにて運営しています。
現在日本人100名超が駐在し、常時50名ほどが出張ベースで出入りしています。オペレーション会社として300名以上を採用しており、スタッフは400名を超え、在ミャンマー日系企業で最大の規模になります。またミャンマー国内でも最大の事業規模を誇り、ミャンマー人スタッフを含めた従業員総数は8,400人を超えます。
−通信環境は大きく改善していますが、取り巻く市場環境は。
ここ2年半でも大きく環境は変わりましたが、2017年が「ブロードバンド元年」といえるでしょう。
2014年7月時点では、MPT単独のサービス提供に留まり、携帯電話普及率は約10%でした。2013年6月にノルウェーのテレノール、カタールのオーレドーが事業免許を取得し、2014年夏に事業を開始し、通信市場は一気に動き始めました。
この2年は世界でも類を見ない勢いで成長を続け、市場全体が伸び続けています。2017年1月末でSIMカード発行数は5,000万枚に達し、間も無く普及率が100%を超えるところまで来ています。弊社モバイル契約数の推移を見れば、2014年に600万だった契約者数は現在2,300万を超え、4倍の規模になっています。需要の拡大にあわせて、通信網の整備も行われ、人口カバー率も98%まで広がりました。通信環境は改善し続け、グローバルスタンダードに近付きつつあります。日本の水準に近づくのも時間の問題です。
現在、移動体通信事業を担うのは、上述の外資2社とMPTの3社ですが、2017年1月には第4のキャリア、マイテル(ベトナムとミャンマーの合弁会社)が携帯電話事業を開始しました。ミャンマーでは多くのユーザーが手にする携帯はSIMカードスロットルが2つです。今後は、この2つのSIMカードの枠を4社で争う格好になるでしょう。
−市場で特徴的な動きはありますか。
固定通信においては、ADSLやファイバー等による通信サービスを提供する会社は10社近く存在し、競争は激化しています。ミャンマー政府としても積極的にライセンスを発行している印象ですが、サービス対象エリアはヤンゴン、マンダレー、ネピドーに留まり、ミャンマー全国でサービス提供できる体制は整っていません。ミャンマーはこれまで固定通信への整備がなされてきませんでした。一気に移動体通信事業が拡大したため音声通信に留まらず、データ通信まで一足飛びにモバイル先行で進んでいる状況です。
ミャンマーは既にMtoM(機械から機械へ)の時代に突入しています。IoTと言った方がピンと来る方が多いかもしれません。。
人の手を介在することなく、機械から機械にデータを転送することができれば、情報管理が容易に行えるようになります。各機器に我々の提供するSIMカードを備えつけることでデータ転送は可能です。MtoM化することで、情報管理に関わるコストの削減、タイムリーな情報取得が可能となり、人為的ミスもなくなります。日本では、自動販売機や電気メーターの状況管理、農業分野での利用など多岐にわたり展開されています。
ミャンマーでも、バスの運行状況管理やタクシーの配車管理、銀行の現金自動預け払い機(ATM)等の分野において既にニーズが存在しています。気付けば導入した技術が日本に先行していたケースもありました。 例えば、我々はミャンマーにおいて、 「モバイルリモートアクセス」サービスを提供しています。どんなデバイスからでもセキュリティレベルを落とすことなく社内リソースにアクセスできるサービスです。当サービスは、ミャンマーの銀行やATMで既に導入されている技術ですが、日本よりもミャンマーが先行した事例の1つです。
法人分野においても、通信会社としての事業は拡大しています。
−法人分野の可能性を強く感じますが実際はどうでしょうか。
法人向け部門は、ジョイントオペレーションの準備段階から私が赴任して、文字通りゼロから立ち上げた部門です。それまでは、法人向けの概念すら存在していませんでした。
日本では、契約者の約15%を法人名義が占めているため、ミャンマーにおいてもニーズがあると見込んでいます。計算上は2300万契約のうち15%に相当する350万契約が法人契約のはずですが、実際の法人契約件数は2万件程度と実態に即していないと考えられます。これはプリペイド方式の宿命であり、今後ポストペイド方式に移行していけば、掴めるようになっていくでしょう。
というのも、ミャンマーではプリペイド方式での通信利用が中心です。業務用に個人の携帯を利用してもらい、会社が通信補助費として一定額を支給しているケースが多くなっています。そのため、実際の法人契約件数は掴みにくいのですが、潜在ニーズの高さは感じています。
法人部門では、グローバルスタンダードの技術を持ち込み、一気に開拓を推し進めてきました。次々に新サービスを開発し続け、多くの法人向けサービスをリリースしてきました。例えばクローズドユーザーグループサービスは、月額固定でグループに登録したメンバー間の通話が使い放題のサービスです。最低5名から利用可能で、企業におけるメリットもわかりやすいと多くの企業にご利用いただいています。
また法人専用のテクニカルサービスセンターを備え、24時間365日休むことなく、対応できるようなサービス体制を整えています。これも法人向けサービスの1つです。
現在も35サービスを計画中です。日本では“ソリューション”がキーワードでしたが、ミャンマーではプロダクトアウトで法人マーケットを牽引していくことが現時点の解だと考えています。
時に、自らの手で市場を創っている、そんな感覚を覚えています。
−課題もあるかと思います。
セキュリティーに対する意識の低さは、大きな課題です。
赴任当初、営業を開始して驚いたのは地場銀行がセキュリティーの確保されていないインターネット回線を利用して通信していたことです。大切な顧客の資産情報を取り扱う金融機関としては考えられない対応で、日本ではありえません。
持続的発展を考える上で、企業インフラとしてのセキュリティー対策が不可欠であることを伝える啓蒙活動からスタートしました。銀行や政府は理解を示すスピードも早かったため、世界では当たり前のセキュリティー対策となっているIP VPNサービスを提供しました。相手が相手なだけに、ミャンマーの国のために啓蒙活動をしている、と感じていました。
しかし、企業メールがGmailであったり、コンピュータのソフトウェアは正規版ではなく海賊版を利用していたり、メールでのファイル添付時のパスワードロックすらかけられていなかったり、とあらゆる面でセキュリティーに対する意識の低さを感じます。とりわけ中小規模の一般企業ではまだまだ認識が薄く、セキュリティー対策の重要性が伝わっていないのが現状です。さらなる啓蒙活動が必要です。
また、先にも述べたように、ミャンマーの携帯はプリペイド方式が中心です。トータルコストを抑えられるメリットはありますが、残額がなくなれば使えなくなってしまい、通信が途絶えてしまうため、管理が必要です。先述の通り、ミャンマーでは既にMtoMの時代に突入していますし、管理の手間暇を考えると、ポストペイド方式のニーズもあります。ニーズに応える形で、2017年3月には擬似ポストペイドともいえるオートリチャージサービスの提供を開始します。残高が一定金額を下回ったら、銀行口座から自動的に転送されるサービスです。法人ニーズを汲み取ったサービスですが、今後、一般消費者にも広がっていくと感じています。
−次の一手は。
我々は総合通信会社としての社会的使命を背負っています。その責務を全うすべく、ブロードバンド元年の今年は、マルチメディア展開でミャンマー全国に仕掛けていきます。
情報ハイウェイをミャンマー全国に張り巡らせるためには、移動体通信網の整備だけでは安定性の面から見て十分とはいえません。ファイバーを中心とした固定回線の役割が欠かせません。 弊社は国営企業がバックグラウンドにあり、ミャンマー全土に約350の基地局を保有しています。既存の設備を利用することで全国に固定回線を用いたファイバー計画を実行していきます。
社内でも投資するか否かについては、大きな判断になります。移動体通信事業を中心に展開する他社には真似のできない事業であり、大きな社会的使命を背負った我々MPTにしかできない事業です。銀行をはじめ、法人が全国展開していく上で通信インフラの存在は不可欠ですので、ニーズを先取る形で先行投資を決めました。将来的には一般ユーザーにも還元できると考えています。
移動体通信業においては、人口カバー率は98%に達していますので、次は早さと繋がりやすさを追求するフェーズにあります。2017年夏以降には4Gサービスをミャンマー全国で展開します。すぐに日本の水準に追い付くでしょう。
料金は、下がるところまで下がっていますし、我々は業界内でも最安値でサービス提供をしています。4Gサービス網を利用して、次にどんなサービスを提供するか、が鍵を握ります。
常にお客様視点の経営を忘れることなく、ブロードバンド元年となる2017年はさらに仕掛けていきます。