2017年6月28日
−第一次ミャンマーブームの頃からサクラタワーを運営されていますが。
1996年頃から第一次ミャンマーブームが起こり、ヤンゴン日本人商工会議所(現:ミャンマー日本人商工会議所)が設立されるなど、日系企業の進出も進んでいました。ちょうどその頃に、サクラタワーは日本企業の手によって建設を開始し、1999年に営業を開始しました。サービスアパートメント「サクラレジデンス」、バガンのリゾートホテル「バガンティリピセヤリゾート」も同時期に建設に着手し、営業を開始しました。
現在は名前を変えたスーレーシャングリラホテル(旧:トレーダーズホテル)、チャトリウムホテル(旧:日航ホテル)等もこの時期の建物です。
タイをはじめとしたアジア投資熱が高まる中、97年7月、タイバーツの急落をきっかけにアジア通貨危機が起こり、アジア全体への投資熱が急落。ミャンマーもその影響を受ける形となりました。さらに追い討ちをかけるように、2003年7月にはアメリカが対ミャンマー経済制裁を発動。お客様の数はさらに落ち込みました。先の見えない苦しい状態を耐え切れず、2009年前後には日系企業が運営から手を引いたプロジェクトもいくつかありました。弊社も御多分に洩れず、開業から15年近くは苦しい時期が続きました。
サクラタワーも、現在でこそ20階のレストラン「スカイビストロ」、屋上のルーフトップバー「ヤンゴンヤンゴン」を含めて営業していますが、10階より下のフロアだけで運営していた時期もあります。127室の客室を抱えるティリピセヤでは、月間来客数10名以下の時期もあったと聞いています。
−ヤンゴンの不動産市場の環境は。
私は、2009年に前職の日本債券信用銀行(あおぞら銀行)を早期退職し、2010年秋エクセに入社し、2011年11月からミャンマーと行き来するようになりました。1年ほどの出張期間を経た後、現地代表としてヤンゴンでの駐在がはじまりました。
2011年の民政移管後一気に流れが変わりましたが、建物は急にはできません。
オフィスビルでいえば、経済が大きく動きはじめた2012年頃には、大型オフィスビルはサクラタワーとFMIセンター、センターポイントタワーしかなく、外資企業のミャンマー進出ニーズが急速に加速したため、需要不足の状況は続きました。
結果的に、ヤンゴン市内のオフィス稼働率は100%近くに達し、家賃が高騰。最も高騰した2014年前半には、サクラタワーの賃料が平米100ドル近くに達しました。家賃を抑える意図もあり、コンドミニアムの一室を住宅兼オフィスとして利用する企業も多くありました。
2013年には、サクラタワー20階の弊社経営のレストラン「スカイビストロをオフィススペースとして貸し出した方がいいのではないか」と内外から声が上がるほどの切迫具合だったのだと思います。実際にお客様から「オフィスとして借りたい」と直談判を受けたこともありましたが、長期的視点で考えて断りました。2015年に入るまで、オフィス物件は需要過多の状況にありました。
−市場の将来性はどうでしょうか。
2014年の後半以降、事業拡大を契機により効率的な事務所運営を目指すケースもできました。
2014年10月に外資系銀行に対して営業免許が交付されましたが、初期に免許が交付された9行中5行がサクラタワー内に所在していて、駐在員1名に現地スタッフ数名程度の規模で事務所を構えていました。免許交付前は、それで十分だったためです。それが免許交付後は一転、事業開始にあわせた増員や営業窓口設置に必要なスペースの確保を理由に、より広いオフィスへと移転しました。
またオフィス物件全体としても、同時期から供給も増えており、2017年2月時点では、ミャンマーセンター、スーレースクエアといった大型物件も開業しています。さらに今後もいくつかの大型建設プロジェクトが完成を控えており、2017年には延べ床面積にして、2011年の9倍近くになるとの見通しも示されています。
供給過多から供給過剰のフェーズに移りつつあり、値段も落ち着きはじめました。オフィス物件へのニーズはまだまだ広がりますが、需給バランスからみれば、賃料が再度上昇することは考えにくい状況といえます。
−住居用物件の状況も同様ですか。
サービスアパートメントについても、似たような状況でしたが、オフィスよりもニーズが未だ逼迫している印象です。オフィス環境は妥協できても、生活の拠点となる住居は妥協したくない、と考える方が多いのでしょうか。ヤンゴン全体のサービスアパートメント数は2011年以来、部屋数が3倍以上に増えたものの、オフィス物件ほど需給バランスは改善されていません。依然としてサービスアパートメントの利用率は100%近い高水準のままであり、賃料も変わらないままです。
弊社でも新たにサクラレジデンス2を建設し、2015年より運営を開始しましたが、2棟あわせてほぼ90%が埋まっている状況です。進出企業数の増加や既存企業の事業拡大もあり、駐在員数も増えているため、依然として供給不足のままです。
サービスアパートはオフィスと違い、サービス業の要素が高いので、人材を必要とし、単純に不動産投資をするだけではオペレーションできないという事も影響しています。
−不動産業界の抱える課題は。
道路を中心として、水道・電気といったインフラ整備にはまだまだ課題が残ります。
市内中心部には、高層ビルがドンドン建ち並び、人の行き来は増えていますが、公共交通機関が発展しておらず、街中はご覧の通りの大渋滞です。ビルが増えれば増えるほど、状況は悪化していくでしょう。
市内中心部にできた大型オフィスビルでは、駐車場こそ確保されていますが、ビルに面する道路の交通渋滞は激しく、出入りが大変です。渋滞緩和を目的として、バスシステムが改善されましたが、まだまだ目に見えるほどの渋滞緩和には至っていません。タクシーの台数制限、駐車場の整備、電車利用者の増加等を含めたさらなる渋滞緩和に向けた今後の取り組みに期待したいところです。
水道整備にも課題は残されており、今でも水道が止まることがあります。サクラタワーでは、利用者の利便者を考慮して自社で井戸を掘り、井戸水で補完しています。ほとんどのオフィスビルで同様の対応をしているため、長い目では地盤沈下等のリスクも抱えており、心配です。水道整備にはまだまだ時間が掛かると思いますので、しばらくは今の状況が続くでしょう。
電力面においても課題は残り、未だに停電も多いため、各ビルが発電機を備えることで対応しています。発電機利用時には、燃料費もかさんでしまいますので、早く解決される事を願います。
インフラ面の課題が解決されていかなければ、経済発展も早晩行き詰まっていくのではないか、と心配しています。
業界全体の課題としては、建築物の品質向上が不可欠です。これまでの住居用物件は、投資用物件が中心です。外見は立派でも、中身を見れば、行き届いていない部分の目立つ建物ばかりです。いざ自分が住むとなれば、内装や細かい部分は気になるはずですが、投資用物件は、見栄えだけしっかりしていればいいという考えが先行しているようで、細かい部分は雑な作りが多い状況です。
銀行融資を受ける際を考えても、土地は担保にすることができますが、住宅は担保の対象になりません。箱が建つ地面の価値は認められても、地面の上に建てられた箱の価値はないと考えられているのです。またその実態を、ミャンマーの人たちが一番わかっているため、コンドミニアムが売れておらず、入居率も低いままです。数十年持たず、ダメになる建物自体に、実質的な価値が認められていないのです。
現地最大手の銀行であっても、不動産を担保にした住宅ローンを組むことはできません。こうした建物への信頼度の低さは、金融市場にも影響を与えているといえます。住宅金融が発達しなくては、サラリーマンとして働く中間層の人々が家を買えるようにはなりません。不動産市場が活性化していくためにも、建築物の品質向上は欠かせない要素です。
−次の一手を聞かせてください。
弊社はこれまでミャンマーの国に対して、どの日系企業よりも早く大型の投資をしてきました。しかし、不動産投資に関しては慎重に見極めています。今後の政策や法整備状況を見守る中で、ミャンマーが投資家にとって魅力的な国なのかの判断が必要になります。投資する業界、目的、タイミングによって良し悪しがありますが、弊社の投資先はミャンマー一択ではありません。これまでに投資してきたベトナム、モンゴルを含め、世界全体のマーケットを見渡し、リスクとチャンスの双方を考慮し、ポートフォリオを組む中で、海外投資を考えていきます。
とはいえ、これまでミャンマーには大型の投資をしてきましたし、法人税・商業税の納税者ランキングで上位にランクインしており、これまでにミャンマーで築いてきた強固なビジネス基盤があります。そのメリットを最大限に活かし、次のビジネスを展開していきます。