2017年6月29日
— 事業内容を聞かせてください。
弊院はヤンゴンにおいて、医療検査、健康診断、予防接種、一般内科の大きく4つの医療サービスを提供しています。 ヤンゴンでは2015年より日本語デスクを設け、邦人及び日系企業で働くミャンマー人向け医療サービスを提供しています。日本人の方が一般診療を受けられることはもちろんですが、従業員向けの医療検査の窓口としての役割がメインです。
医療検査は、日系企業で働くスタッフをはじめとした、日本人のそばで働くミャンマー人向けの検査サービスです。ミャンマーで多い感染症(結核、肝炎など)を中心に、定期検査を実施しています。日本語でミャンマー人スタッフやドライバーさん、メイドさんの検査申し込みが可能です。健康診断においては、日本と同じ内容の健康診断をヤンゴンで受診いただけます。リーズナブルな料金設定であること、検査施設を併設しているため結果が出るまでの時間が速いことが弊院の特徴です。弊院内で必要となるすべての項目の検査ができるため、1時間以内で検査結果が出ます。また、各企業のニーズに合わせて健康診断の検査項目のカスタマイズも可能です。医療検査・健康診断共に、結果は直接雇用主に提供するため、結果改ざんリスクが回避できます。日本語デスク開設後は、口コミで日系企業の定期健康診断の利用が増えています。100人以上いる従業員の健康診断を請け負うことも可能です。
予防接種においては、ミャンマー渡航時に推奨されている予防接種のワクチンを取り揃えています。具体的には、狂犬病、B型肝炎、破傷風、腸チフスなどのワクチンを備えています。
一般内科は予約制、個室対応、日本語コーディネーター付きで基本料金28,000チャット(2017年2月現在)にて対応しています。肝臓や心臓などの専門医診察以外はすべてミャンマー人と同じ料金体系ですので、保険がない方も安心してご利用いただけます。原因がわからない痛みの場合は併設の検査センターにて、採血、便、尿、レントゲン、CT等ですぐに検査ができます。海外旅行保険キャッシュレス診療も利用可能です。2016年4月からはマンダレーにおいても、サービス提供を開始しており、一部サービスを除き、ヤンゴンとほぼ同じサービスを受けることが可能です。
— 事業をスタートしたきっかけは。
弊院は、1991年に私のおじが設立した血液検査事業からスタートしました。設立当時、私自身は日本で生活をしていました。帰国後6年が経過した2004年に私と弟の医師ニーニーハンで経営を引き継ぎました。 私自身は、1990年から日本に渡航し1998年に帰国しました。はじめは日本語学校に通い、その後はコンピュータ専門学校で勉強をしました。学校卒業後は、東南アジアからの留学生や在日外国人を支援する「NPO法人アジア友好の家」の活動を手伝いつつ、関連会社の正社員として働きました。
NPO法人の活動では、ミャンマー語通訳として病院に同行する機会が多くありました。当時の日本には、オーバーステイのミャンマー人が多くいました。彼らの多くは、公的機関に足を運ぶと強制送還されてしまうのではないかと恐れるあまり、なかなか病院に行かない事情がありました。かなり症状が深刻化した状態で駆け込んできた患者さんに付き添って病院に行くことが何度もありました。足を運んだ病院の施設の綺麗さや新しさ、衛生環境の整った空間のイメージが無意識のうちに脳内に刻まれていました。
1998年に帰国してからはIT会社でコンサルティング業をしていましたが、2004年から病院経営を引き継ぎました。引き継いだ当時は、血液検査事業のみで、扱う検体数も1日20程度と小規模でした。引き継いだ当初から、日本で見た素晴らしい病院のイメージが強く頭に焼き付いており、もっと病院を大きくしたい、と考えていました。日本で使用している機械をとても信頼していたため、2006年に日本のシスメックスの検査機器を購入しました。ミャンマーではじめてとなる機械であり、そちらを導入したことも大きな分岐点でした。その後、血液検査事業も拡大し、2009年にはクリニックを構えることができました。2014年には、内科、血液検査、健康診断を一箇所で対応できる現在の事業形態になりました。
— 生活する上で気をつけるべきことはありますか。
感染症の存在は忘れてはいけません。誰でも感染するリスクがあります。とりわけ、ミャンマーでは、肝炎や結核のウイルスを体内に保有する「キャリア」の方が多く、HIVも存在します。日本で勤務するために渡航したミャンマー人スタッフが、結核を発症し、ミャンマーに帰国せざるを得なくなったケースもありました。結核のキャリア患者は10人に1人いると言われています。キャリアか否かを100%見分けることはできません。ただし疑いの有無は検査で調べることが可能です。結核菌を保有していても発症していなければ、人への感染の心配はありません。発症した場合は、空気感染(飛沫感染)のリスクがあるため、オフィス内感染に注意が必要です。またドライバーさんやメイドさんといった密室で同じ空間を共にする方にも注意が必要です。事前にキャリアの疑いがあるかを把握しておけば、咳き込み出したタイミングで検査を受けさせ、早期発見が可能です。早期発見できれば、オフィス内感染も防ぐことができます。
肝炎については、血液検査で調べることができます。予防接種を受けることで、感染予防が可能です。多くの日本人の方が予防接種を受けた上で渡航されていますが、未接種の方は当院で接種することが可能です。 また肝炎は、経口感染のリスクがありますので、社内でのコップの使い回し、お弁当の食べ回しに気をつけることでリスク回避ができます。普段の生活の中で、直面することは考えにくいかもしれませんが、感染リスクが潜在的に存在しているため、気をつけておく必要があります。
結核や肝炎など、日常生活の中にも感染リスクが潜んでいるため、年1度は定期検診等で確認しておくと良いでしょう。将来的には日本のように、事業者が従業員に健康診断を受診させる義務を負うような法律が整備されていく可能性もあるでしょう。
—次の一手は。
サービス品質を高めていくこと、これに尽きます。弊院をご利用いただいた日本人の方から「この病院いいよね」と、言われるような病院を目指して日々取り組んでいます。日本人の感覚で、改善すべき点に気付き、1つずつ改善していく。その繰り返しを通じて、日本の病院と遜色ないサービスの提供を目指しています。サービス品質向上のため、接客担当社員約20名を対象に、週5日、毎日1時間、医療知識や語学の研修を実施しています。
この2年で来院数は2倍以上になり、ミャンマーの患者さんも増えており、医療サービスは供給不足の状況にあります。医療系人材の獲得が難しくなっていることから見てもこの傾向は明らかです。我々には、医療機関としての社会的責任があります。2016年にマンダレーで開業したばかりですが、来院数も多く、ニーズの強さを肌で感じています。長い目で見て、他の都市にも広げていければ、と考えています。