2017年6月29日
— ニラタイさんは日本に留学して、その後起業していますね。そもそも、キャンメイクの仕事はどうして始めたのですか。
ミャンマーで大学を卒業したのち、日本語学校に通い、その後東京の日本電子専門学校でコンピューターを学んでいました。留学時代のお金がない時に出会ったのがキャンメイクでした。安くて品質が良く、若者でも手が入る化粧品で、すぐにファンになりました。ミャンマーでは、化粧品はぜいたく品だというイメージがあります。若者でも手が出だせるキャンメイクをミャンマーに紹介したいと思っていました。卒業後、日本でIT企業に就職したかたわら、中古家電の輸出の仕事もしていました。それでもキャンメイクを取り扱いたいと思っていましたので、何人もの人のつてで、製造元の井田ラボラトリーズの担当者を紹介してもらいました。2010年前後でしたが日本では、ヤンゴンの民主化デモの取材でジャーナリストの長井健司さんが撃たれた事件の記憶が鮮明で、ミャンマーと言うと「軍事政権の怖い国」というイメージでした。誰も視察に行きたがりませんでした。しかしありがたいことに、井田ラボラトリーズの方はそういったことはなく、ミャンマーにも一緒に来ていただけました。とても感謝しています。そうして総代理店として取引を開始することになり、ヤンゴンに1号店を開設したのが5年前の2011年になります。
—いまでは全国に30店以上の店舗を展開していますね。お店をみると、日本のモデルや日本語のPOP(店内販促)をそのまま使って、日本の「カワイイ」イメージを打ち出しています。
そうですね。今のミャンマーでカワイイ路線のコスメブランドはほかにありません。ミャンマー人はこれまで、「目元は真っ黒、唇は真っ赤」といった濃い化粧が好まれていました。しかし、私たちはもっと自然なスタイルを提案しています。韓国のブランドも進出していますが、キャンメイクとは少しテイストが違いますね。主なターゲット層は、働く若い女性です。10万チャットから30万チャット程度の安定した月収がある20代~30代の女性ですね。
ミャンマーで困るのは、売り手も買い手も、ターゲットが明確になっていないことですね。例えば、日本でしたら、化粧品でも年代別に売り場がわかれています。ファッション雑誌でも、年代や嗜好によってたくさんありますよね。若者向けのコスメと、アンチエイジングでは顧客層が違いますから。ですが、ミャンマーではこうした区別があまり明確ではなく売り場もわかれていないので、消費者が自分の必要性に合わない化粧品を選んでしまっているケースもあるのです。
— ミャンマーの化粧品市場をどう見ていますか
ミャンマーの化粧品市場はこれから増え続けます。今の40代では、伝統化粧品のタナカを使っている人が多いですが、20~30代では化粧をする人の割合が高くなっています。10代ではすでにあまりタナカを使ってないですし、高校を卒業すると化粧をするようになります。こうした世代が年をとるに従い、市場が拡大していきます。現在、マンダレーで売れゆきが好調なので、営業に力を入れています。マンダレーで人気のある女性ブロガーとコラボしたイベントを展開します。化粧品をどう使うかを写真やビデオで解説してもらい、フェイスブックなどで拡散させる狙いです。
—ミャンマーでのビジネスは、ミャンマー人でも難しいと聞きます。
この国では思い通りにいかないことが多く、何度も悔しい思いをしました。例えば、よく港からコンテナが出せなくなることがありました。また、ショッピングセンター側の都合で、急に店舗の場所が変えられてしまうことがあります。せっかくお客様に場所を覚えてもらったのに、別の場所に移るとわからなくなってしまいます。日本では絶対に考えられないことですが、ミャンマーではビルのオーナーのほうが強いのです。また、ミャンマーの市場環境はすぐに変わります。季節や外部環境によっても違いが大きいのです。そのため3か月に一回、マーケティング戦略を見直すことにしています。
最近は頼もしいスタッフも育ってきています。ミャンマーではトップダウン経営が多いのですが、私はできるだけ仕事を任せるようにしています。そうしていると、スタッフが自分の意見を言えるようになるからです。 今はキャンメイクに注力する時期なのですが、将来的には自分のブランドを作りたいと思っています。誰もが手が届くようなブランドが作れたらと思います。