2017年6月28日
−ミャンマーに来られたきっかけは?
2013年11月からヤンゴンに赴任しました。その前は、羽田空港の国際線ターミナルで勤務していたため、成田路線のヤンゴンは当時の自分の頭の中にはありませんでした。過去に1度、仕事でヤンゴンに来たことはありましたが、辞令を受けた時は青天の霹靂でした。それ以来、4度目の正月をヤンゴンで迎えました。 お客様と貨物を安全かつ確実に航空便で輸送すること。一言で言えばそれが我々のビジネスです。ヤンゴン支店では、それらに付随する航空券の販売や貨物輸送に伴う手続きを行います。具体的な例でいえば、ヤンゴンでチケットを購入して日本に渡航される方に対して、窓口で航空券を販売し、発券の手続きを行っています。
また、ミャンマー航空業界の人材育成も支援しています。「ミャンマーの航空業界に貢献したい」との想いから弊社が働きかけたことで実現しました。2015年から成田空港でミャンマー人技術者の受け入れを開始し、3年計画での研修を実施中です。グランドハンドリングと呼ばれる、航空輸送における空港地上支援業務に取り組んでもらっています。戻ってきた人材が教える側の人材になることをイメージした取り組みであり、ミャンマーの人がミャンマーの人に教えるスキームづくりを支援しています。当然、ミャンマー側の協力がなくては成立しないため、ミャンマー側の本気度も問われる取り組みです。我々は当運営を、ミャンマー側からサポートしています。
−市場環境はどう変化していますか。
利用率を見ると、変化がわかりやすいかと思います。2014年からの2年で利用率が10%増加しました。ミャンマーは雨季と乾季で利用率が大きく異なります。雨季にあたる4−9月の利用率は2014年が51%、それに対して2016年は10ポイント増の61%。観光シーズンであり乾季となる10ー3月の利用率は2014年68%、2016年は78%の見込みです。ヤンゴン便は200人乗りの機体のため、1日平均20人、往復40人の増加です。1年の365日で考えれば、14,600人お客様が増えた計算です。おかげさまで、順調に増えています。
またヤンゴンでチケットを購入者する方の比率も25%に上昇し、2年前から10ポイントほど増加しています。日本発のお客様の数も増えていますが、それ以上にヤンゴン発のお客様数が増加しています。この理由は、ヤンゴン駐在者の増加、ミャンマー人の日本渡航者数の増加にあります。ミャンマー人の渡航者でいえば、搭乗者10人のうち約2人がミャンマー人となっており、赴任当初(2013年11月)から約2倍に増えています。
日本からの渡航者でいえば、観光・ビジネスの両方で伸びている印象です。年末年始やGWをはじめとした日本の連休シーズンには、ヤンゴン便の搭乗率が上がっています。これは、団体のお客様の渡航を含めた観光利用者が増えているため、と考えられます。
−他に変わったところ、変わらないところは?
変わったところと変わらないところ、両方ありますが、大きく変わったのは、クレジットカード決済とウェブ決済の割合が増加していることでしょうか。私が赴任した当初は、クレジットカード決済ができませんでした。またネット環境が脆弱だったのもあり、ウェブからチケットを購入する人の数も数えるほどでした。
今も、お客様が窓口までチケットを買いに来られるお客様は少なくありませんが、赴任当時お金のやりとりのすべてが現金でした。当時は、弊社に紙幣の枚数を数える紙幣計算機もなかったため、残業してお金を数えていたのが思い出されます。すぐに紙幣計算機を購入し、うまくタイミングも重なりクレジットカード決済ができる環境も整えることができました。
こうした対応に代表されるように、その場しのぎのマニュアル対応が多かったため、1つ1つ小さな業務改善を繰り返していきました。おかげさまで、今はクレジットカード決済者の割合が増え、ウェブからチケットを購入する方の数も増えています。ここは大きく変わった点です。
一方、航空業界の中では、どの国でも銀行集中決済方式という決済方式が導入されています。これは、旅行会社等の代理店と航空会社間の決済を集中管理し、航空会社に支払いが行われるシステムです。このシステムがないのは、アジアの中でもミャンマーだけです。赴任当初に、当システムがないことに驚きましたが、今もまだ3年前から状況は変わっていません。
−課題として感じている事は?
安全に対する意識の低さは、課題だと感じています。例えば工事現場を見ても、サンダルとロンジー(現地伝統衣装の巻きスカート)といった動きにくい格好で作業をしているのを見掛けます。またヘルメットを被ることなく作業している現場も少なくありません。また火気の近くにもかかわらず、平気でタバコを吸っているのも見掛けます。こうした安全意識は、航空業界でも同じです。特に航空業界は、人の命を預かる仕事ですから余計に厳しくないといけないと思っています。現状の改善に貢献したいとの思いもあり、日本での人材育成・研修プログラムを提供しています。こうした取り組みも通じて、長い目で安全意識の向上に貢献できれば、と思っています。
航空行政の理解を深めていく必要性がある、とも感じています。航空業界は、航空行政と密接に関わっています。これは、日本でもミャンマーでも同じです。いくら弊社が便数を増やしたい、と願っても空港にはキャパがあり、方向性を決めるのは行政です。そのため、ミャンマーの航空行政について理解を深めていく必要性を感じています。日本とは異なる論理で考えられており、理解し難い動きもあります。
例えばヤンゴン空港で新しく国際線用の第1ターミナルが稼働した際、ナショナルフラッグキャリアであるミャンマーナショナルエアラインズが新しいターミナルに移動しました。その9ヶ月後、新たに国内線の第3ターミナルが稼働したタイミングで、また旧ターミナル(第2ターミナル)へ移動すると発表されました。裏で何が起きているのかはわかりませんが、なかなか理解し難い動きです。国際線であれば、こうした動きのしわ寄せは、外国の航空会社に来て振り回されることもあります。我々の情報収集力の甘さもありますが、航空行政を理解していくことが我々の課題です。
施設面に関しても、ようやく個別の航空機を駐機するスポット数を増やす工事が始まりましたが、もっと早くから着手しても良かったのではないか、と感じています。予算や航空行政の問題も絡み、簡単なことではないでしょうけれど、ところどころ疑問を抱くこともあります。
ミャンマーでは、4月の長期休暇期間 及び 雨季にミャンマー全体の経済活動が低迷します。弊社の利用率を見てもダイレクトに影響が出ています。雨季と乾季では利用率に15ポイントの開きが生じています。4月の長期休暇は、ミャンマー人の日本渡航が増えるといった前向きな面もありますが、長期休暇は年に1度だけ。天気のことばかりはどうしようもないですが、この落ち込みに対しては、何か対策を講じたいところです。
−御社の次の一手は?
利用者の利便性を考えれば、たくさんできることはあります。現在、日本とヤンゴンを結ぶ航空路線は1日1便ですが、将来的には1日2便化を実現したいです。また日本の国全体の航空行政もあり簡単ではないですが、羽田空港発着便の運行検討にも働きかけていきたいです。当然、社内体制・市場の状況・機体数・乗務員の確保といった環境整備に加えて航空行政も絡むため、乗り越えるべき壁は高いです。マーケットの伸び次第でもあり、いつになるかはわかりませんが、実現に向けて働きかけ続けていきたいです。
また、アメリカ渡航時の経由地としての成田空港利用にも需要があると思っています。日本が直接の目的地ではなくとも、全日空便を使っていただく機会はありますので、その点も仕掛けていきたいです。
ANAは、1996年からミャンマーのヤンゴンに支店を構え、2012年からは定期便が就航を開始しました。ミャンマーの地で仕事をさせていただいていることに対して、恩返しをしたいと思っています。ミャンマーの航空業界の発展に貢献したい、との想いで働いています。その取り組みの1つがグランドハンドリング人材の育成ですが、他にも様々な形で貢献ができると思っています。その想いを1つずつ形にしていければ、と思っています。