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業界別インタビュー

2017年6月23日

法律は1つだけだが、実際の運用とは違う

法務・税務・会計

ラジャタン・エヌケーリーガル Rajah&Tann NK Legal Myanmar
マネージングパートナー: ニェイン・チョー Nyein Kyaw
法律は1つだけだが、実際の運用とは違う
1979年に弁護士資格を取得、1980年に事務所を設立し、2010年よりアジア11カ国に拠点展開する法律事務所ラジャタングループとパートナー契約を結んだのがニェイン・チョー氏だ。社会主義時代も含めた37年の経験がある同氏から話を聞いた。(取材日/2017年1月)
原点は刑事弁護士としての活躍

−弁護士になったきっかけは何ですか。

 実を言えば若い頃、建築士になりたかったのですが、働く機会に恵まれませんでした。当時のミャンマーは、社会主義国家。例えば、貿易も政府の仕事で、民間企業は存在しませんでした。そのため、職業選択の幅は限られていました。今のミャンマーでは、子供達が努力さえすれば、チャンスは得られますが、当時はまったく違いました。
 そんな中、法律の分野では当時もニーズがありました。いざ法律を勉強しはじめたところ、とても面白く、そのまま法律の道に進みました。社会的背景もあり、今とは異なり刑事弁護士として働きました。刑法の世界では1回の裁判ですべてが決まり、やり直しは効きません。「刑務所へ」と言われたらそれでおしまいです。企業法務のように交渉、書類の事前確認、修正といったことは一切できません。裁判の1つ1つに、彼らの人生がかかっていました。政治活動を行うアクティブな若い人たちは、お金もあまりなく、貧しい人がほとんどでした。彼らの人生を救うために弁護士として支援し続け、多い時には1日に10件〜15件ほど担当していました。
 1989年以降、政治体制が変わり、民間企業が登場しはじめてからは、企業法務案件も取り扱うようになりました。1988年以前に担当していた刑法と、企業法務ではお客様はもちろん、考え方のベースとなる哲学も大きく違いました。しかし、私の弁護士としての原点は刑法にあります。

−現在はどんな事業を手掛けていますか。

 ミャンマー市場における法務サービスに関してはどんなことでも請け負っています。ラジャタングループは、ミャンマー含むアジア11カ国に拠点があり、600名以上の専門性の高い弁護士が揃っています。そのネットワークも利用しながら、各案件に対応しています。ミャンマー事務所では、ミャンマー人弁護士9人、外国人弁護士3人が所属し、お客様の要望に応じてあらゆる法務サービスを提供しています。ミャンマーの法的実務はまだ初期段階にあり、発展途上です。よって今のところは特定分野への特化はせず、幅広く対応しています。案件の9割は企業法務に関する案件です。日系企業の案件では、日本人弁護士がミャンマーに駐在して担当したケースもあります。
 守秘義務契約の関係もあるため、具体名はいえませんが、支援案件の幅はかなり広くなっています。例えば、国際的にも名の知れている石油・ガス会社、通信会社、金融関係、大型開発プロジェクト、労働紛争解決、製造業など、多くの案件を担当してきました。ちなみに、お客様の9割は外国企業となっています。

2017年はよりチャレンジングな環境に

−ミャンマーの法整備はどうなっていますか。外国人にとって不便だとの指摘もあります。

 住むのか、ビジネスをするのかで、違います。ミャンマーに住む際、法律上は外国人もミャンマー人も違いはありません。外国人の場合、入管法に基づいたビザ手配等の手続きは必要ですが、それ以外は同じです。しかし、ビジネスをするとなれば、現状は外資規制があります。貿易をはじめとして、事業内容によっては外国企業が認可を得られないなど、外国人投資家にとって不利な状況は未だ残ります。2017年1月時点では、外国投資法が内国投資法とは別に存在しているのがいい例です。
 しかし、今後は多くの投資家を呼び込むため、外資規制緩和の方向に動き出しています。この先施行される予定の新しい投資法の下では外国企業も内国企業も同じ投資法に従うことになります。外国人投資家にとっては、これまでに比べてビジネスがしやすい環境になるでしょう。
 今の政府は、とても早いスピードで環境改善を行っており、今後も更によくなっていくでしょう。この動きをより力強いものにするためには、ミャンマーの人々が政府を信頼し、支援していくことが大切です。そのためには、政府としても透明性を確保しながら、大衆の意見を取り入れていくことで、信頼される存在になっていく必要があると思っています。そうすれば、発展のスピードはさらに早まっていくでしょうし、海外からの投資家にとっても、よりよい環境が整っていくはずです。
 2016年は政権交代の影響もあり、投資や開発プロジェクトが数ヶ月止まりました。しかし2017年は、よりチャレンジングな環境になっていくと思います。

ミャンマーが連邦国になってから、たったの70年

−ミャンマービジネスで留意すべきことは。

 法律でいえば、ミャンマー連邦に法律は1つしかありません。しかし、法律と実際の運用は違います。だからこそ、ミャンマーの実際の運用を知るミャンマー人の弁護士やパートナーの存在が必要だと考えています。パートナー選びのポイントは、ミャンマーでは何が良くて何がいけないかを、しっかり理解している相手かどうかです。
 もちろん、法律は法律として存在しますが、実際の運用においては各地の独自ルールに従わざるを得ないケースもあります。各地域には長い歴史があります。1947年のミャンマー誕生以前には、それぞれの地域でリーダーや王様がいて、まったく違うルールの下で生活していたのです。そのことを忘れてはいけません。
 北は中国国境沿い、東はタイ国境沿い、西はインド国境沿い、すべてミャンマーという1つの国ではありますが、各地に独自ルールがあり、習慣があります。ミャンマー国内には135民族がいるとされていますが、それぞれが異なる哲学の下で動き、生活スタイルも異なるのです。交通手段、言葉、服装も違えば、電気がないエリアもあり、ミャンマー語が通じないエリアもあります。
 ミャンマーが連邦国になってから、たったの70年に過ぎません。よって、私の個人的な想いとしては、無理矢理変えさせてはいけない、と思っています。
 100年後はどうなっているかわかりません。発展していて、ミャンマー全土に電気が行き届き、道路も整備されているかもしれません。しかし、今はまだ状況が違います。法律と実際の運用を把握しながら動いていく事が大切です。
 欧米諸国、東南アジア、日本、それぞれの地域に特徴があり、生活スタイルも考え方も常識も違います。ミャンマーにも当然、違いがあります。外国の方々は、心理面を含めた実際の運用まではなかなか掴み切れません。だからこそ、ミャンマー人パートナーの存在が必要です。

「倫理的であり続けること」を後進に伝える

−今後の展望はどう考えていますか。

 私は、法務分野で37年以上の経験があります。我々の法務サービスは必ずお客様のお力になれると信じています。法律事務所は他にもいくつかありますが、我々にはこれまでミャンマー国内で培ってきた多くの経験があります。また、海外経験豊富な600名以上の弁護士がアジア各国に控えています。お客様のために全力を尽くせる環境が整っています。よって、私の望みとしては、日系企業はもちろん、多くの投資家やビジネスマンの皆さんにミャンマーで事業を展開して欲しいと思っています。我々の持つ資源は、ミャンマーでの法務サービスの提供において間違いなくお客様のお力になれますし、そう強く信じています。
 個人的には、さらには、この国をよくすることにも貢献していきたい、と思っています。常日頃から弁護士には倫理感が必要不可欠だと思っています。性格やふるまいにもそれは顕れます。弁護士は、相手を尊重し、人々から尊敬される存在でなければなりません。また同時に、国を導く人であり、国に忠誠を誓う人でもあります。もし弁護士に倫理観が欠けていれば、国をよくすることはできません。よって、事務所で働く若手弁護士には「倫理的であり続けること」の大切さを、常に伝え続けています。
 倫理観のある弁護士を育てることができれば、急激な変化を迎える時代においても、この国をよい未来へと導いていけると考えています。


ラジャタン・エヌケーリーガル Rajah&Tann NK Legal Myanmar
事業内容:法務・税務・会計
URL: http://mm.rajahtannasia.com

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