ミャンマーに進出する日系企業のための
B2Bガイドブック WEB版

業界別インタビュー

2017年6月23日

ミャンマーの制度、整合性が必要

法務・税務・会計

デロイト・ミャンマー Deloitte Myanmar
シニアマネジャー: 宮下淳 Miyashita Atushi
ミャンマーの制度、整合性が必要
ミャンマー進出にあたってどうしても必要になる会計や税務。ミャンマーでは会計や監査が重要視されていなかったため、この分野の専門家が不足している。そんな中で頼りになるのが外資系の会計事務所や税理士事務所だ。デロイト・ミャンマーのシニアマネジャーで公認会計士の宮下淳氏に、ミャンマーの会計・税務の現状を聞いた。
進出前提の調査依頼が増加

―宮下さんは公認会計士ですが、ミャンマーではもっと幅広い業務を手掛けていますね。

 はい。デロイトは監査、税務・法務、コンサルティング、リスクアドバイザリー、フィナンシャルアドバイザリーの5つの分野を手がけています。ミャンマーで需要が高いのは、会計監査と、税務、コーポレートセクレタリアル(書類提出など事務作業代行)の業務ですね。実際の業務を行うのはミャンマー人会計士らの専門家ですが、私はコーディネーターという形で、日本の顧客の要望に合ったサービスができるように調整しています。
最近では、進出に関わるフィージビリティスタディ(FS)などの依頼も増えています。FSでも、以前よりももっと具体的な調査の依頼が増えました。進出するかどうかではなく、進出することが前提の調査で、相手も相当調べてそれでもわからない部分の調査を依頼してきます。例えば、「何何州の農業ビジネスの可能性について、土地や制度を調べてほしい」などという依頼で、以前よりも要求する調査のレベルが高まっています。
 この国で調査レポートを作成するのは大変なことなのです。例えば、規制については、「ルールはこう」「実態はこう」と2つの観点から述べる必要があります。実際に調査するのはミャンマー人スタッフですが、日本人の観点から見て、知りたいであろうことを事前に想定して指示します。また、出てきたレポートも日本人なら疑問に思う点を指摘して、追加してもらうようにします。

決算期が集中

―この国の会計・税務に関して注意しなければいけない点は何でしょうか。

 そうですね。決算期が3月と決まっているうえ、6月末までに税務申告をしないといけないので、あらゆる会社の決算や監査業務などが4月~6月に集中してしまいます。そのうえ、4月中旬には水祭り休暇もあります。デロイトでは、この多忙な時期は日本人の会計士をヤンゴンに呼び寄せ、対応しています。本社の連結決算が必要な会社ですと、30日~40日で作業を終えなくてはいけませんが、相当タイトなスケジュールになるので注意が必要です。
 最大の課題は、法律などが総合的に制度設計されておらず、ちぐはぐで整合性がとれていないことです。このため、多くの支障が生じています。例えば、現行の会社法ではすべての会社に国際会計基準に準拠した会計監査を義務付けていますが、その反面それに対応できる会計士などの人材がいません。きちっとした会計監査が必要なら、その人材も手当てしないと機能しないのは当然です。そのため、ミャンマーの会計士の中には、ろくに監査をせずサインするだけという人もいると聞きます。

―複式簿記ができる経理担当が少ないなど、人材面での不足も指摘されていますね。

 それはもう仕方がない部分がありますね。経理担当者が作成した書類に不備があった場合は、我々が正しい形に訂正しています。実際問題として、日本企業の本社の要求する水準の財務諸表を作ったり、監査したりする業務は、外資系の事務所にしかできないと思います。
 また、経理担当の社員を雇う場合には、日本語人材にこだわらないほうがよいと思います。日本語ができ、かつ経理の知識もあるというのはかなりハイスペックな人材で、ほとんどいないと言ってよいでしょう。日本語にプライオリティを置くことはお勧めできません。

実態に合わないルールに注意を

―一方で、税務に関しての課題は何でしょうか。

 一番の問題は、細かいルールがなく、税務署の担当者の主観によるところが大きいという点です。ミャンマーでは、大企業担当の税務署と、中小企業担当の税務署がありますが、このうち中小企業のほうでは、税務申告したあとに必ず税務署のヒアリングがあり、そこで当局から税額を示されるということになります。このことから、「申告納税制度と賦課課税制度の中間」などと揶揄されています。
 また、実態に即していないルールがある点も注意が必要です。例えば、商取引における源泉徴収は法律では義務付けられているのですが、ミャンマー企業はほとんど守っておらず、日本企業側が法律通りに源泉を引いた額をミャンマー企業に支払おうとすると「どうして全額支払わないんだ」などとクレームを受けることもあります。コンプライアンスに厳しい日本企業には難しい対応が迫られます。
 また、印紙税が2015年の税務調査で急に厳しくなったように、急な制度変更もあるのでこまめな情報収集が必要となります。

投資法や会社法の改正作業が進んでいる

―海外でのキャリアが長いようですね。

 入社以来三分の一程度をシンガポールやタイなどで駐在していました。いまは、カンボジアとラオスの担当でもあります。
学生の頃にバックパッカーをして数十カ国を回っていたのですが、1998年にミャンマーにも訪れているのです。マンダレーから夜行バスに乗って地方都市に着いたのですが、到着した時間が午前2時ごろで、ホテルもなく不安になっているときに、ミャンマー人の家に泊めてもらうことができたのです。「この国は面白い」と思ったことが記憶に残りました。
この経験があったので、ミャンマーには自分から手を挙げて、2015年に赴任しました。
 外資の規制がほとんどないカンボジアでは、進出企業のビジネスの幅が広いのですが、ミャンマーではまだ参入障壁が高いですね。投資法や会社法の改正作業が進んでいます。細則や運用の面で、外国人投資家の自由度が高いものにすることが必要だと思います。


デロイト・ミャンマー Deloitte Myanmar
事業内容:法務・税務・会計
URL: www2.deloitte.com

その他の「法務・税務・会計」の業界インタビュー