2017年6月23日
-ティラワの多機能物流施設が動き出します。事業開始はいつから。
弊社は2011年よりミャンマーでの市場調査を開始し、2014年4月1日に現地パートナーの協力を得て営業を開始しました。私は2015年3月に郵船ロジスティクスミャンマーの社長に就任しました。2012年に駐在員事務所を設立し、バングラディシュと兼任の駐在員がミャンマー市場を出張ベースで見ていました。
2013年頃には社内のミャンマーに対する機運も高まり「進出するからには先頭を切ろう」と前任者が駐在を開始し、2015年より後任として私が赴任しました。
私自身の海外赴任歴として、ニューヨークやデトロイト、香港に次ぎ、今回が4回目。9.11やリーマンショックなどの大きな節目は海外で経験しました。
ラストフロンティアと言われ、これから発展するミャンマーの地で新たな挑戦ができることに喜びを感じています。「ミャンマー事業のオペレーションをグローバルスタンダードに近付け、他国拠点と遜色ないものにすること」が私の使命だと捉えて、攻めの姿勢で臨んでいます。
現在は、私を含む日本人2名、合計21名で業務を行っています。サービス内容は、陸上輸送、航空輸送、海上輸送、通関業務、倉庫業務、クロスボーダー(国境間取引)の大きく6つです。
5月末にはティラワ経済特区の多機能物流施設も完成し、7月にオペレーションを開始します。ティラワの施設は、敷地面積30,096㎡、建物面積6,208㎡、オフィススペース(2階)660㎡。この一階部分には冷蔵(5℃~8℃)、冷凍(-18℃~―20℃)、定温(15℃~20℃)の3温度帯の施設を設置します。食品や化学品だけでなく低温保管が必要な薬品などの保管も可能です。また4,000㎡の完成車蔵置用のヤードも完備し、一般および保税車両保管、完成車の納品前点検・補修・部品補給サービス、通関手続きなど完成車物流サービスにも力を入れていきます。
-御社が目指しているところを教えてください
弊社では、ソリューション営業を掲げています。私自身、ソリューション営業とは「各国でサービスの品揃えを豊富にして、お客様のニーズにお応えすること」と理解しています。例えば、ティラワの物流施設では、冷蔵、冷凍、定温、常温の4温倉庫を揃えることで、幅広いニーズに対応可能です。
輸送する対象として、車・食品・機械設備・ハイテク部品と幅広く対応できる体制を整えることで、ミャンマー進出のお客様の多様なニーズに応えられます。サービスの品揃えを豊富にすることは、お客様のためになると信じています。
さらには、発展していくポテンシャルあるミャンマーにおいて、様子見ではなく先陣を切って、様々なサービスが提供できる仕組みを構築していきます。我々がこれまでに培ってきた知識や経験をミャンマーの物流業界で応用しようと取り組んでいます。
南アジアのヘッドオフィスであるシンガポールのサポートも受けながら、共通のシステムオペレーションを運用することで、質の高いサービスを提供していきます。
こうした取り組みを通じて、お客様の信頼を獲得し、ビジネスパートナーの地位を築いていきたいと考えています
-ミャンマーの通関システムの現状は。
ミャンマーでは、日本の申告納税方式(インボイス価格ベースでの課税)とは異なり、税関が課税価格を決定できる賦課課税方式を採用していました。2015年3月に関税法の改正法が公布され、申告納税方式へ移行されることになりました。
日本の援助で開発された通関システム「MACCS(Myanmar Automated Cargo Clearance System)」が2016年11月中旬に導入され、インボイス価格ベースの課税方式への移行が期待されています。
MACCSは、ヤンゴン国際空港、ヤンゴン本庁、ヤンゴン本港、ティラワ港、ティラワ経済特別区内の税関で運用されます。MACCSの導入により、輸出入の申告、審査、関税納付、認可を含む一連の通関手続きを電子化し、商業省の発給する輸出入ライセンスとも連結することが出来ます。導入直後は、システムに通関士が対応できずに多少混乱もあったようです。はじまってすぐのタイミングでは、未処理件数が,3000件あったものの、1ヶ月強が経過した2017年1月末には約1,000件に減り、既に軌道に乗りはじめています。
当システムは、輸入者を信頼することになります。よって事後調査の仕組みが必要になります。ミャンマー政府は、JICAの支援を受けて、調査対応ができる職員の育成にも着手しはじめています。他国の手法を導入することで、対応は十分に可能です。
今のところヤンゴンのみでの運用であり、全土展開はこれからですが、システム面はグローバルスタンダードに近付くと期待しています。
-物流業界の市場環境は。
人の受け売りではありますが、ベトナムとミャンマーを比較した物流に関するデータがわかりやすいので紹介します。
2015年のベトナムの輸出額は、ミャンマーの14倍です。ベトナムの最大輸出品は携帯電話と関連部品で輸出額の19%を占めます。
その金額だけで、ミャンマーの全輸出額の2.6倍相当です。また、輸出品目にも特筆すべきデータがあります。ベトナムは全輸出の6割強が工業製品であるのに対し、ミャンマーは7%。少し古いデータですが、2013年ミャンマーの輸出品目は、天然ガス30%、翡翠9%、豆類8%、縫製品8%です。工業製品の割合はまだまだ低いのが現状です。
ベトナムでは輸出の7割を外資系企業が占めますが、ミャンマーではまだまだ少ない状況。外国投資における日本の比率でみてもベトナムは10%を超えますが、ミャンマーでは1%程度。シンガポール法人経由の投資を加えても2%~3%程度でしょう。
今後、ティラワへの日系企業進出が増えてくることは追い風になりますが、まだまだメーカーの進出を含めたハイテク産業の進出は少ない状況です。ベトナムと比べて市場規模がまだまだ小さいのが現実です。
市場規模拡大の大きな鍵を握るのは、ハイテク産業の進出ではないでしょうか
-ミャンマーの物流業界における課題は。
ミャンマーでは、輸出産品に対し輸入産品が多く、国全体で見ても、貿易赤字となっています。輸出入のバランスが取れていれば、輸入したコンテナに輸出品を入れて輸出ができます。しかし、ミャンマーでは輸入したコンテナを、空コンテナで返す割合が高くなっています。前述の通り、ミャンマー国内には輸出できるものが少ないことも原因のひとつとして挙げられます。
ハイテク産業の進出がキーになるでしょう。しかし、ハイテク産業が進出してくるためには、インフラ整備不足が否めません。道路の整備状況は行き届いていないため、精密機器を運ぶにはリスクがあります。また電力・電圧が不安定で停電も頻発するため、ハイテク産業を担う工場の稼働にはリスクが残ります。他にも法規制、外資規制、人材不足などの問題も抱えています。
車などの一部製品については、前述した申告納税方式(インボイス価格ベースによる課税)が採用されていません。そのため、JCCM(ミャンマー日本商工会議所)で意見をまとめて、大使館といっしょに、日緬共同イニシアティブで、ミャンマー政府への申し入れをしています
物流に関する法制度といったソフトインフラ、道路環境を含めたハードインフラ、双方が整備されていくことが求められています。
-今後の物流業界全体の見通しは。
クロスボーダー取引では、タイ北西部メソートとミャンマー東部のミャワディ間の国境取引が中心です。両国の間には、第1友好橋が架かっており、その橋を跨いで国が変わります。総重量25トンの重量制限があります。タイとミャンマーでは走行車線の左右が異なるため、橋の中央で車線が変わります。
タイからミャンマーへのコンテナ輸送を例に挙げれば、タイからの積み荷をミャンマー側国境近くの保税エリアで積み替え、税関での検査が必要です。現在は積み替えの際に、タイ車輛からミャンマー車輛へ積み替える必要があり、積み替え時には製品の破損リスクもあり、時間も要します。この方法には、改善の余地があります。スルーコンテナが実現しますと、ミャワディ―で通関を切りコンテナごと運べますし、保税運送でティラワ経済特区へ運べます。
ティラワ経済特区には保税倉庫を備えるため、ティラワで通関ができるようになります。そのため、国境での積み替えではなく、スルーコンテナ(コンテナのみ積み替え)での保税輸送が実現できるよう日緬共同イニシアティブを通してミャンマー政府にも働きかけています。既にタイとミャンマーの2国間で合意されており、2017年中にはテスト輸送を開始する予定で、前向きに進みそうです。それに伴い、現在の100%検査からランダム検査に変更する仕組みも提案しています。
現在の第1友好橋に加えて、タイの援助で第2友好橋が建設中であり、2018年4月頃には開通予定です。開通時期にあわせて、スルーコンテナでの保税輸送が実現することを期待しています。
輸送時間は短縮され、貿易量も増加するでしょうし、物流業界へのインパクトもかなり大きいものになるはずです。
-次の一手は。
まずは、ティラワを順調に稼働させていき、ティラワをキーステーションとしたクロスボーダーの付加価値を高めていきます。ティラワの倉庫には税関用の部屋も準備しており、税関職員の方が常駐してもらえるようになっています。保税機能を充分活かした拠点にしたいと考えています。
同時に国内配送も増やしていこうと考えています。先の話にはなりますが、ヤンゴンだけに限らず、ミャワディやマンダレーにも拠点を増やしていくことも考えています。
弊社だけではなくJCCM運輸部会全体で一団となって、日緬共同イニシアティブの場等を通じて、問題を提起し、改善し、ミャンマーの業界自体が国際基準に近づきWin-Winになれるような仕組みを作っていけたらいい、と考えています。