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業界別インタビュー

2017年6月22日

攻めの投資と環境保全、両輪の事業展開

製造・小売

王子アジア ミャンマー支店 Oji Asia Packaging Sdn Bhd, Myanmar Branch
支店長: 徳永 清朗 Tokunaga Seiro
攻めの投資と環境保全、両輪の事業展開
製造業を支える裾野産業が貧弱だと指摘されるミャンマーで、ダンボール製造事業、総合パッケージング事業、モーラミャインでの製材工場、さらにはオムツ販売まで手掛けているのが王子ホールディングスだ。同社ミャンマー支店立ち上げから現在まで、数々の事業投資を決めてきた先導者である徳永氏に話を聞いた。(取材日/2017年2月)

経済が発展すれば、ダンボールの需要は高まる

-攻めの投資が目立ちます。事業本格化のきっかけは。

 弊社は2013年5月にミャンマー支店を設立し、本格的にビジネスを開始したのは2015年5月の段ボール製造事業からです。一言で紙といっても、産業資材である段ボールと、一般に言われる印刷紙等では流通形態もマーケットも完全に異なります。
 2013年のテインセイン政権下において、社内ではミャンマーでの事業展開は早過ぎるとの意見が過半数を占めていました。しかし、経済が発展すれば、物が動きます。物の動きが増え、流通量が増えれば、段ボールの需要は高まります。私は、今しかない、と感じて本社に提案をしていました。その強い想いを汲み取っていただいた当時の篠田社長の鶴の一声でダンボール事業は動き出しました。
 2015年5月ヤンゴン市内のミンガラドン工業団地に段ボール工場が完成しました。時を同じくして、ハイネケンやカールスバーグなどの外資系ビールメーカーがミャンマーに進出しはじめました。ミャンマーで一般に流通していた段ボールは底が簡単に抜けるなど、ビール等の重いものを輸送するには不向きでした。弊社の技術に裏打ちされ、紙質や糊付け、ホッチキス止めにもこだわった、高品質で密閉性の高い段ボールは、絶好のタイミングで、市場の開拓に成功しました。
 また以前より進出が進んでいた縫製業においても、湿気に強くて濡れない気密性の高い段ボールに対するニーズがあり、そのニーズを埋める事に成功しました。
 例えば、品質へのこだわりでいえば、紙の原料は、中国、タイ、マレーシア、日本などから商品の用途に合わせて輸入して使用しています。某有名ブランドバッグの委託加工工場では、外面が美しく強さも兼ね備えたダンボールへのニーズがありました。弊社では、そのニーズに対応するため、ニュージーランドから100%パルプの原料を仕入れて製造した段ボールを納めています。お客様のニーズに対応した商品を供給できるよう多彩な原料を取り揃えています。

環境に配慮した取り組みはミャンマーでも

-どのような事業を展開されていますか。

 ミンガラドン工業団地での段ボール工場、ミャンマー南東部モン州の州都モーラミャインでの製材工場を手掛けています。紙オムツの販売や、世界初の海外販売として「鼻セレブ」の販売を開始しました。直近の話としては、2017年よりティラワ工業団地において、総合パッケージ事業の展開をはじめたところです。インクジェット印刷機も導入し、これまでミャンマー国内だけでは解決できず、マレーシアの関連会社に依頼していた難しい印刷案件にも対応できます。段ボールだけでなく、包装材やラベルに対する幅広いニーズに応えることが出来るようになっています。
 紙を利用する上では、環境への配慮も欠かせません。植林をはじめとして、環境に配慮した取り組みはミャンマーでもはじめています。
 2016年4月よりモン州のモーラミャインで住友林業グループと現地会社とで、製材工場の運営を開始しました。ミャンマーでは森林法の中に「商業規模で森林生産物を搾取する権利を取得した者や、森林植林や国の許可を得て自然再生を行う責任を有するは、自己の費用で規定に従ってこれを行うこと」と記載された法律がありますが、前政権下では、法律が遵守されているかどうかまでは問われていませんでした。
 NLD政権に移行してからは、持続的な開発が課題とされており、今後は取り締まりが厳しくなっていくことも予想されます。元々、弊社は法律や社会規範を遵守、尊重して事業展開をしています。
 ミャンマーでも持続可能な林業に貢献するため、植林事業にはさらに注力していきます。

素早く対応して掴んだビジネスチャンス

-次々と攻めの事業展開をしていますが、その秘訣は。

 弊社は2016年10月から、ミャンマー最大手のシティーマートホールディングス全店舗で「ネピア」ブランドの紙オムツ「Genki!」の販売を始めました。はじめて営業に行った際には、「既に日本製は他社の製品が入っているから仕入れる気はない」と断られました。他社の日本製の紙オムツは市場シェアの50%近くを占めており、シティーマート社もその製品を仕入れていました。数ヶ月ほど経ったある日突然、同社社長からプレゼンをして欲しいとの依頼があり訪問する機会を得ました。商品を見せて説明をしたところ、パッケージの形状に対する指摘を受けました。即座にパッケージ変更に対応し、2日後には同社に届けました。すると、即座に同社社長からゴーサインが出て、シティーマート全店舗に納入する運びとなりました。製品の品質は元より、対応の早さと誠実さが功を奏しました。
 誠実に対応すること、素早く対応すること、こうしたビジネスの基本はミャンマーでも同じなのだ、と強く感じたエピソードです。

-業界全体が抱えている課題はありますか。

 ミャンマー日本商工会議所の工業部会の会長を2年勤めています。部会全体として、各社の抱えている課題や解決方法を共有しています。それとは別に、ティラワ工業団地に進出している企業でも定期的に集まり情報交換をしています。愚痴の言い合いといった後ろ向きな議論ではなく、建設的な議論をするように努めています。
 小さな課題は多くありますが、最近は、目立って大きな課題はありません。最低賃金の制定の際には各社とも、様々な困難に直面していました。最低賃金が制定された以上、法令を遵守して雇用していくことは大前提です。従業員の離職をいかに食い止めるかも大きな課題です。弊社では福利厚生の充実を心掛けています。最低賃金が上がり、コスト削減のために止むを得ず従業員への食事提供をやめた会社もありました。弊社では、従業員の住居と食事を確保し、生活が保障されることで仕事に集中できると考え、食事の提供は続けています。おかげで離職率は低く抑えられています。いかに賃金を抑えるか、を考えるのではなく、いかに離職率を抑えるか、を考える。このほんの少しの発想の違いが、長い目で見て、事業の成否を大きく分けます。
 また、ミャンマーでは労働組合があまり機能・発達していない為、経営者と従業員間の意思の疎通が難しく、従業員の要望が掴みにくいことも課題です。ミャンマー人スタッフに任せて、日本人が出張ベースで対応している会社もありますが、そのような会社は他社に比してトラブルも多い印象です。日本人の駐在員を置いて労使間の調整を図り、また現場を把握し、日々指導、改善していくことが重要です。

環境保全にも取り組み、持続可能な社会を

-次の一手は。
 オムツの販売を皮切りに、ティッシュやキッチンペーパーなどの家庭用紙の製造・販売へも力を入れて、ミャンマー国民の生活の質の向上や快適さへの提案も行っていきます。
 また、より一層の製造拠点拡大や事業の拡大を狙って、マンダレーで段ボール事業を手掛けるミャンマー企業の買収も考えています。投資法の改正に伴い、これまでに増してM&A等、攻めの投資も仕掛けやすくなります。
 ティラワ工業団地では、総合パッケージ事業に加えて、水を浄化する浄化槽の製造もはじめます。ミャンマーでは、工場排水に対する具体的な基準や罰則規定はないのが現状です。しかし、工場排水が垂れ流しになっている等、環境負荷も少なくありません。またレストラン等でも同様のことがいえます。
 今後、法律で規制されていくことは予想されます。具体的な基準が定められた後には、工場、ホテル、レストラン等は浄化槽を設置しなければ経営ができなくなるでしょう。
 現在、ほとんどの浄化槽はタイやベトナムから輸入されており、その分値段も高くなっています。ミャンマー国内での需要に対応するとともに、ミャンマーの土壌や水質汚染を防ぐ環境保全にも取り組んでいきます。
 さらなる環境保全への取り組みとして、バイオマスボイラーを利用した発電事業も考えています。弊社は世界で1番ウッドチップを集められる会社です。その強みを生かした再生可能エネルギーの利用を通じて、地球環境問題へも積極的に取り組み、持続可能な社会の実現も目指していきます。


王子アジア ミャンマー支店 Oji Asia Packaging Sdn Bhd, Myanmar Branch
事業内容:製造・小売
URL: www.ojiholdings.co.jp

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