2017年6月28日
−ホンダのバイクが売れているそうですが、秘訣はどこにあるのでしょうか?
ホンダミャンマーは2013年より現地パートナーの販売総代理店を通じて、二輪の販売を開始しました。2015年の1年間で販売店を51店舗増やし、すごい早さで100店舗を超えました。販売台数は対前年386%増加で54,000台に達し、2016年度の期間には最低でも8万台を売り上げる見込みです。
2015年は販売店の開業式典が相次いだこともあり、全国各地での式典に参加させて頂きました。各地の首長もお招きするため、基本的にセレモニーは土日開催で、ほぼ毎週末ミャンマー全土を飛び回っていました。
ホンダでは創業以来、ホンダポリシーである現場、現物、現実を観るという「三現主義」を大切にしています。私自身も常日頃から現地で現物・現実を観る事を大切にしており、遠くとも足を運ぶように心掛けています。ミャンマーの場合、地図上に飛行場マークがあっても、実際には稼働していない空港も多く存在します。そのため、片道8時間の車移動といったケースもあります。2015年中はそれがほぼ毎週でしたから、身体はもうボロボロですよ。私ももう若くないですしね。
それでも、現地に着き開業式典前の販売店に行列ができている光景を見ると、一気に疲れが吹き飛ぶんですよね。ホンダの販売店が開店することは、その町にとっても誇らしい事なのだと経営者の方はお話をされます。町の人々にとっては「世界のホンダが我が町にやってきた」との感覚なのです。だから、開業式の朝からお客様が行列をつくります。マンダレー管区のミンジャンの町では、開始45分で13台のバイクが売れました。3分半で1台、しかも1店舗での話です。そうした場面に出くわすと、お客様がホンダブランドを期待している事を実感し、使命感が一層増します。
−ミャンマー市場の魅力は、どのような点にありますか?
ミャンマー市場はいわば白地図で、最初にペンを入れられる魅力があります。弊社が力を入れている二輪市場では、仮に10万台を売り上げてもシェアは10%レベルです。残りの90%は、中国製の廉価版やコピー製品、中古品が占めています。ミャンマー全土でシェアを握るのは70万チャット(6万円弱)以下の製品。安いものでは新車で3万円といったバイクも少なくありません。それに対してホンダは最も売れているモデルが10万円以上、上級モデルは20万円以上します。シェア拡大だけを思えば、廉価版の販売も1つの戦略ですが「安かろう」の土俵で戦う気はありません。我々の使命は安心で安全なバイクをお客様に満足度高く提供することにあります。
東南アジア各国を見ればわかるように、バイクの使途を制限することはできません。激しい洪水に見舞われ、冠水がザラにある東南アジアで、雨の日に走らないで下さい、とは言えませんよね。まるで軽トラックの荷台のごとく物を積んで走るバイクも多いですし、家族6人が身体を寄せ合って乗っている光景も見ます。積載重量制限をしても無理です。であれば、我々の使命は性能で応えること。つまり、安心で安全な信頼できるバイクを提供することが使命です。
常にライダーの命を預かる存在にもなりますので、安心感と信頼感のある高性能なバイクを、お客様の元に届けることがミッションと考えています。それがホンダブランドの価値であり、どこへ行ってもホンダが知られている理由です。
ベトナムのようにホンダ=バイクの代名詞として認知されている町もミャンマー各地に点在しています。例えば、海産物の町、ミャンマー南部タニンダーリ管区のベイの町にはホンダ製品のみを扱い、月250台ものバイクが売れるお店があります。お米の生産地で潤うタイ・ラオス・中国国境に近いミャンマー東部シャン州のチャイントンの町では、市政府が特別に許可し、中学生以上はバイクに乗って通学をしています。この町でも、ホンダのシェアは80%を超えています。イスラム系移民の多く住むタイ国境に近い南東部カレン州のコーカレイの町では、家族5、6人でバイクに乗るため、壊れないホンダのバイクが住民に選ばれています。
それぞれ立地的にも離れていますが、いずれの町でもホンダが信頼されている証です。全国で100店舗を超えたとはいえ、まだまだホンダのバイクを購入することができない空白地帯も多いのが現実です。しかし「いつかはホンダのバイクを買いたい」と考えているお客様が沢山いるため、まだまだやれることは尽きません。
また弊社では二輪だけでなく草刈機やボート用のエンジン等の汎用機も販売しています。またアメリカ限定ですが、ホンダはジェット機の販売もしています。アメリカでは予約が相次ぎ1年以上待たなければならない人気商品です。実は、このホンダジェット機についても、ミャンマーで2件の相談を受けました。お断りせざるを得ませんでしたが、まさに成長中の国力を感じたエピソードの1つです。
二輪に限らず、幅広くミャンマー市場の可能性を探り、ホンダ製品拡販を仕掛けていきたい、と思っています。
−売り上げを伸ばすパートナー支援の秘訣はどこにあるのでしょうか?
私の役割は、ブルペンキャッチャーです。決して表舞台には立ちませんが、ピッチャーを気持ちよくマウンドに送り出し、活躍してもらうための下支えをする。そして、最終的にファン=お客様に喜んで頂く事が使命です。ミャンマービジネスで例えると、ピッチャーはパートナーである販売総代理店や各地販売店の経営者、ファンはお客様です。
そのために、私ができる限りのバックアップを行なっています。販売店の開業式典に足を運ぶのも大切な役割の1つです。日本人である私が、スーツを着てその場に参加するだけで、間接的に、その土地の首長の顔を立てることができ、販売店経営者の立場を引き上げることもできます。お客様からすれば、日本人=ホンダジャパンの代表者です。よって、私が足を運ぶだけで「わざわざ私達の町に日本人が来てくれた」と喜んでいただけるのです。
これには、開店後にありがちな色々な嫌がらせを避ける効果もあります。
販売支援も私の役割の1つです。販売店の経営者は、元学校の先生だったり、多様なバックグラウンドを持っており、販売のプロばかりではありません。ありがたいことに、私はこれまで営業のプロとしてキャリアを積んできました。私のノウハウが販売に貢献できることもあります。
シャン州タウンジーの町にある販売店を訪れた際、経営者から相談を受けました。話を聞いていたところ、この町の特徴を見逃しており、他の店舗と同じ売り方をしていました。タウンジーの特徴は学園都市であること。学園都市には学園都市なりの売り方がありますので、その方法を丁寧に伝え、一緒に戦略を考えました。学生へのプロモーション、女子大生へのアプローチ、学生の親御さんへの対応等について、私の持つ営業ノウハウを伝授しました。するとその後は、次から次へと紹介が相次ぎ、当然ながら結果として売り上げも伸びました。またそうした事例を通じて、販売総代理店の頑張りを日本に報告することも私の役割です。おかげでその販売店の経営者や販売総代理店との信頼を強固なものにすることができました。
決して表には出ませんが、パートナーが活躍する姿が見えることで、私自身貢献できている充実感を得られています。それが私のブルペンキャッチャーとしての役割だと捉えています。
−ミャンマーの二輪市場においては、どんな課題があると考えていますか?
知的財産法の早期整備を望んでいますし、この領域については強い課題認識を持っています。現在は法律が未整備なので、いくら訴えても効力がないのが実態です。ホンダブランドは信頼の証です。地方に足を運んでも、無認可のホンダ看板が掲げられているのを、あらゆる場所で見かけます。それらの多くは偽物の看板です。ホンダの看板を掲げれば、お客様が来ることを知っているのです。実際に、店内に並ぶのは中国製の廉価なコピー製品で、ホンダのバイクはありません。最近ではより精巧なコピー製品が登場しています。
ここに強い課題意識があります。例えば、お客様が偽物のホンダのバイクに乗り、バイクが壊れて事故にあい、怪我をしたとします。お客様はホンダと思って乗っていたのに、偽物であったために壊れて、怪我をしてしまった。そうなれば、ホンダの製品への信頼が損なわれ、ブランドイメージの悪化につながってしまいます。そうした事が起きないためにも、偽物が入り込まないような知的財産法の整備を強く願います。
他にも細かいことを言い出せばキリはありませんが、現行法に従ってフェアに戦っていくしかありません。製品、ブランドを大切するホンダのバイクですから、販売台数を伸ばしていく上では、知的財産法の整備が鍵を握ると考えています。
−御社の次の一手として、どんな事を考えていますか?
販売店数は100店舗を超えたものの、ミャンマー全土でいえば、まだまだ空白地帯が多いのが現実です。空白地帯を埋めていくべく、販売店の数を増やしていくことも必要です。これまでに訪れたいくつかの町と同様に、ホンダを待ってくれているお客様は全国にいます。ミャンマー全土にホンダのバイクを届けられる体制を築くための販売網強化など、できることはまだまだたくさんあります。
一方で、検証も必要な段階だと捉えています。ミャンマー全土で大型3S店が9店舗あります。セールス、サービス、スペアパーツの頭文字である3つのSから名付けられた店舗です。壊れないホンダのブランドを維持するためには、売りっぱなしにしないことが大切です。アフターサービスを行い、緊急時にもその場ですぐに対応できるよう、常にスペアパーツを揃えておく。この当たり前の事をやり続ける事が大切なのですが、堅持するのは決して簡単ではありません。
昨年3S店を立ち上げましたが、それから少し時間も経過しています。大きな店舗では月間200名以上のサービス関連の来客があり、需要は拡大しています。そのため、3S店の実態検証が必要な段階にきています。長年現場を駆けずり回っていますので、写真等を通じて、良し悪しの判断ができることもあります。しかし、現場に足を運び、現物を確認し、現実を直視することが、ホンダの心臓であり、まさに「ホンダのポリシー」です。そのため、この3つの「現」=三現主義に基づき、自ら足を運び、自らの目で検証かつ改善し、お客様の満足度向上を進めています。
私の信念として「挑戦にこそ活路」があります。今このタイミングで、白地図に近いミャンマー二輪市場へ情熱を傾けられる機会をいただけている感謝の気持ちを忘れず、現状に満足せず、挑戦し続けていきます。