2017年6月28日
―人材コンサルティングを中心に、ミャンマービジネスに関連する幅広い業務を手掛けていますね。どのような経緯で現在のような事業展開に至ったのですか。
1996年に大手コンサルティング会社から転職し、旅行会社の駐在員として赴任しました。97年のアジア通貨危機で、本社から帰国命令が出たのですが、ミャンマーに残って仕事を続けたかったのでその際に独立しました。はじめはミャンマー人向けの雑誌を出すなど別のビジネスも行っていましたが、その後インターネットを利用した旅行会社を立ち上げました。そのうち、企業視察旅行や取材のリサーチ、コーディネートなどを手掛けるようになり、進出コンサルティング、人材紹介も始めたのです。現在の事業は、コンサルティング、国内人材派遣、日本への人材派遣、視察や取材などの旅行の手配、視覚障がい者支援の5本の柱となっています。
―ミャンマーで人材獲得に苦労する日本企業は多いですね。ミャンマーの人材をどうみていますか。
日本のビジネスマンは、ミャンマービジネスの課題として法整備やインフラなどを挙げる人が多いですが、進出済み企業の方からの課題は人材獲得と確保とあげるところが多いようです。コンサルティング業務の中でも、人材関連は特にだけは経験が必要となる分野で、ここで他社との差別化が図れると思っています。
長くミャンマーの人材を見ていますが、「ミャンマー人はどうか」と聞かれれば「わかりません」と答えざるを得ません。ミャンマー人は細分化されすぎていて、一括りにできないのです。多民族国家ですし、宗教も多く、出身地でも異なり、アイデンティティが多様です。世代によっても大きく違います。また、環境の変化も早いので、1人の人でも半年経つと全く別の考え方をする場合もあります。これは個別に対応するしか方法がなく、なるべく多くの人材と接する経験を積み上げるしかありません。
―外資企業が必要とする人材の不足から人件費の高騰が進んでいますね。最新の人材市場のトレンドを教えてください。
二極分化していると言えるでしょう。即戦力となる人材の賃金が高騰している一方で、大学新卒の初任給はドルベースでみるとそれほど増えていません。人材を、海外帰国組や外資系経験者など「即戦力層」、2~3年の社会人経験のある「中間層」、新卒もしくはそれに近い「新卒層」に分けた場合、即戦力層は月収500ドル(約5万7000円)以上、新卒では月収15万チャット(約1万2,600円)からになります。なお、数が少ない日本語人材は新卒でも35万チャットから45万チャットになっています。
即戦力の中でも、現在特に厳しいのはマネジメント層で、日系以外の外資系も同様の人材を求めているため、極端な人材不足となっています。日系企業では2015年はマネジメント層を600~800ドルで採用していたのが、2016年には800~1,000ドル程度に上昇しています。また、欧米系通信会社のマネジャーでは月収1万ドル、欧米系食品会社のマネジャーでは8,000ドルという実績もあります。技術系の人材は比較的採りやすい方ですが、IT技術者だけはとても厳しいものがあり、転職市場にもあまり出てきません。
―この人材不足の中で、日本企業はどうすればよいのでしょうか。
いま増えているのは、新卒を採用して自社で教育する企業です。結局この方が早いということが知られてきました。ミャンマー人材に対する批判をよく聞きますが、(日本人が知っていることを)知らないだけであって、きちんと教えてあげればできるようになります。一例をあげると、社会主義時代が長く、民間企業が育っていなかったので、彼らの両親はサラリーマンではありません。そうすると、人の会社で働くことの意味がわからず、簡単に辞めてしまいます。しかし、きちんとキャリアパスを示すことで、納得してくれる部分もあります。
そういったミャンマーだからこそ、教育が大事になって来るのです。ジェイサットでは、研修担当の日本人講師が、基本的なところから研修を行います。たとえば、会社がどのように利益を出しているか知らないので、「売り上げがこれだけあり、人件費や家賃などの経費を引くとこれだけの利益となる」などといったことから説明します。彼らにしてみれば、聞いたことのない話ですから。
―せっかく育てた人材がすぐに辞めてしまうという悲鳴も聞かれます。
そうですね。離職率をゼロにすることはできませんが、低下させることはできます。まず、ミャンマー人リーダーを育成することですね。会社のフィロソフィーを社員に伝えることができるリーダーを作ることが必要です。日本から有能な人材を持ってくるのも一つの方法ではありますが、自社のことを理解する有能なミャンマー人リーダーを自ら育てることが大切です。
また、ミャンマー人は学ぶことが好きです。例えばジェイサットの社員は、他では受けられない研修を受けることに価値を感じているので、辞職率が極めて低く抑えています。また、「英文のメールがかけるようになったらいくら、日本語能力試験に受かったらいくら」というように給与を細分化したところ、透明性が増して、社員自ら給料の値上げを申請してくることが少なくなりました。こうした目標を持たせることも大切です。
私は叱っても大丈夫だと判断した社員は、きつく叱って特には泣く子もいます。それをばねにできる根性のある人がリーダーなのです。ただ叱るのは、それが通用しそうな社員だけです。現在、一緒に徹夜して苦労したミャンマー人のリーダーが育ってきています。このリーダーがほかの社員に、仕事の仕方や会社のフィロソフィーを伝えているのです。
―今後のジェイサットの事業をどう発展させようと考えていますか。
どんどん人材に絞り込んでいきます。人材は企業活動の根幹です。売り上げは上がっていても、人がいなくて倒産する企業もでてきています。あくまでミャンマー人材のスペシャリストですから、カンボジアやベトナムなど周辺国に進出するつもりはありません。現在の日本企業の進出はまだ先発隊とも言うべき段階で、2020年以降に本格化すると考えています。人材教育には時間がかかりますので、その時を見据えて体制を強化していきたいと思います。