ミャンマーに進出する日系企業のための
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業界別インタビュー

2017年6月28日

新卒採用元年のミャンマー。採用時の鍵を握るのは「親」の存在

HR・人材育成

フォースバレーコンシェルジュ Fourth Valley Concierge Corporation
Managing Director : 長野 匡秀 Nagano Masahide
新卒採用元年のミャンマー。採用時の鍵を握るのは「親」の存在
民主化以降、優秀な経験者の採用は引き続き難しい状況が続いている。そんな状況に業を煮やし、若手の未経験者を採用し、自社で育成する道を選ぶ日系企業も珍しくはない。全世界で若手高度人材のキャリア支援を行なうフォースバレーコンシェルジュは、2015年1月にミャンマーにおいてヤンゴン工科大学・ヤンゴン経済大学にキャリアセンターを設立、運営している。ミャンマーの大学、大学生と接する機会が多く、ミャンマーの大学生や若年層のキャリア志向を熟知するフォースバレーコンシェルジュの代表、長野匡秀氏に話を聞いた。(取材日/2016年10月)
国家ビジョンに共感してミャンマー進出

—世界各国に拠点展開される中でミャンマー進出をされたきっかけは?

 弊社代表の柴崎がヤンググローバルリーダー2013に選出され、2013年6月に首都ネピドーで開催された世界経済フォーラム・ヤンググローバルリーダーズサミットに参加した際、テインセイン元大統領やアウンサンスーチー現国家顧問から直接、国家のビジョンについて伺う機会がありました。教育と雇用の大切さにつき、熱弁されていたのが強く心に残ったため、市場のポテンシャルを探り、ミャンマー進出の可能性を検討しはじめました。
 当時は、日系企業のミャンマー進出が増加しはじめたタイミング、競合他社も少なく、いわばブルーオーシャン。市場環境にも強く魅力を感じ、2013年12月にミャンマー支社を設立し、今に至ります。

—長野さんはいつからフォースバレーで活躍されているのですか?またミャンマーに来てどれくらいになりますか?

 私自身は、2010年から同社で働いていますが、それは丁度グローバル人材採用の流れが大きく変わりはじめた頃です。それまでは“グローバル人材=日本人の海外留学経験者”との考えが根強くありましたが、潮目の変化を感じたのが2010年でした。海外留学生数の減少、海外マネジメントの現地化の流れ、楽天の英語公用語化の発表等もあり、採用対象が外国人にも広がり始めました。
 前職では海外留学経験のある日本人の紹介を手掛けていましたが、お客様から「(採用したいのは)日本人じゃないんだよね」との声を聞く機会がいくつか重なったこともあり、現在の会社に転職しました。その後、日本での勤務、シンガポールでの約半年の勤務を経て、2015年4月からミャンマーに駐在しています。

各国事情にあわせた採用戦略づくりまで支援

—御社の事業内容について詳しく教えてください。

 弊社事業の柱は2軸。企業と高等教育機関に対するグローバル人材獲得コンサルティングです。国内・国外問わず、世界中の人材をカバーし、企業や高等教育機関の採用支援業務を行なっています。
 弊社は、世界各国トップレベルの約700大学にネットワークを持ち、その在校生、卒業生情報をデータベースとして保有しています。それらを活用して採用支援業務を展開しています。
 例えば、日本にいるお客さまから「日本で働けるミャンマー人を採用したい」と相談を受けた際には、国民性、採用時の留意点、学生数から予想される母集団数等、幅広くミャンマーの採用環境に関する情報提供をさせていただいた上で、卒業時期から逆算したスケジューリングを含めた採用戦略づくりのサポートをします。その後、各企業独自の特徴や採用の傾向を把握し、採用戦略にあわせて、候補者の絞り込みから採用実務までサポートをさせて頂いています。当然、ミャンマー国内での人材紹介も行なっています。
ミャンマー進出済みの企業のみならず、ミャンマー進出を検討されている企業からもお声掛けいただき、日本国内・ミャンマー国内の両方で支援させて頂いています。

 他にも、ミャンマー国内ではトップキャリアスカラーシップの名称で、奨学金支給を通じた企業のCSR活動支援業務も行なっています。会社の知名度がアップし、ブランディング効果も見込めるとの事で、企業にご興味をお持ちいただいております。

 また、もう一つの軸としてある事業は、高等教育機関、主に大学の留学生獲得支援です。留学生を招きたい、と考えている大学が各国のリサーチやネットワーク構築をはじめ、すべてを一から行なおうとする場合、相当な工数と費用がかかってしまいます。その点を弊社の持つ各国での経験とネットワークを活用し、サポートしています。大学側の支援とともに、留学したい学生に対しては、留学先候補の大学や専門学校に関する情報の提供をし、留学先の斡旋も行なっています。
 ミャンマーでの具体的な動きとしては、日本の47教育機関が参加し、日本大使館も支援する「日本留学フェア」の運営サポートもしています。大学生を中心に約1,300人の日本留学希望者に参加いただき、留学先の選択肢の多さを伝える事もできました。留学後の国内・母国での採用支援業務も展開しているため、留学だけでなく帰国後の就職支援も可能となる点が弊社の強みです。

ヤンゴン工科大学にキャリアセンター(就職課)

—ミャンマーの名門ヤンゴン工科大学にキャリアセンターをオープンしましたが、具体的にはどんな活動をしていますか?

 キャリアセミナーや個々のキャリア相談への対応を通じて、キャリア教育に関する機会の提供を目的とした活動を大学側と連携して実施しています。
 ミャンマーの大学ではこれまでキャリア教育はありませんでした。よって卒業後のキャリアに関して考えたことのない学生がほとんどで、「働くとは何か」「どんな会社があるのか」といった基本的な情報すら持ち合わせていない学生ばかりです。そうした状況に危機感を抱き、各大学と情報交換をする中で、ヤンゴン工科大学とヤンゴン経済大学の学長と意気投合し、キャリアセンターを設置する運びとなりました。
 具体的な活動の1つとして、大学と協力し、学生全体を対象にしたキャリアに関する意識調査を実施しました。まとめた情報を分析し、大学側にもフィードバックしつつ、キャリア教育に役立てています。
 また、週に1回、キャリアセンターに出向き、学生1人1人と向き合う機会を設けています。よくある学生の質問は、「どんな仕事があるのか」「日本で働きたいがチャンスはあるのか」といった初歩的なものです。話を通じて、様々な機会が溢れている事に気付かせ、学生の想いを引き出しつつ、キャリア相談を受け、自発的な行動を促す事を心掛けて接しています。とても意欲的で、魅力的な学生ばかりですよ。

克服すべき課題は「親」

—人材業界で働く中で、課題と感じている事はありますか?

 ミャンマーの人は、親をとても大切にしています。その親の存在は、就職・転職・留学等の場面において、多大な影響力があります。
 日本行きを希望する学生と面談をしながら、この子は日本で働く事で大きく可能性が広がる、と感じた子がいました。本人も日本行きを強く希望していました。しかし、親からは「日本は震災があり、危ないからダメだ」との一言。結局、彼女は日本行きを断念せざるを得ませんでした。子供は親の言うことには従わざるを得ません。特にミャンマーの場合、親を説得してまでも人生を切り拓く、といった人はほとんどいませんからね。
 留学を経験した学生の多くは「子供を海外に行かせたい」と親が考えてレールを敷いているケースがほとんどで、それに乗っただけ、というケースが少なくありません。アメリカへの留学経験者を見ても、親族が住んでいたから、との理由がほとんどです。
 良くも悪くも親の影響力が強過ぎるため、日本就職の場面等において親の理解を得る事は外せない重要な要素と感じています。親の意見1つで結果が180度変わってしまいますからね。もちろん他にも課題は多く、あらゆる面で思ったように進まないことも多いですが、郷に入っては郷に従え、そこは我慢しながらやっていくしかないですよね。

—中途採用が中心のマーケットとの印象ですが、新卒に対する動きはどうでしょうか?

 人を教育する体力のある会社である前提にはなりますが、中途採用での人材獲得が難しくなってきており、さらに賃金相場も上昇し始めている状況ですので、新卒採用に踏み切る企業も増加しています。外資系企業をはじめとして、新卒採用元年に突入している、との感覚を持っています。
 当然アメリカの経済制裁解除の流れを受け、外資系企業の進出の流れが加速していくのは間違いないと思います。人材獲得競争は激しさを増し、賃金上昇は避けられない流れにありますし、人材市場全体として拡大し続けていくでしょう。

—そうした拡大し続ける業界の中で御社が手掛ける次の一手は?

 現在、実現に向けて取り組んでいるのが「日本センター」です。トップクラスの大学から選抜した合計100名程度に対して、日本就職及び日系企業に就職する為の日本語スキルや商習慣などに関する教育を提供するプログラムです。

イメージ的には金の卵にさらに磨きをかけるといった感じでしょうか。各企業にも協力いただき、知識を提供いただければ、と考えています。当アカデミーから知識やマインドが揃った人材を社会に輩出することができれば、企業側もいい人材が獲得でき、ビジネス機会の拡大にも繋がります。
 また参加者は日本センターを通じて、日本ならではのビジネスの進め方や考え方を学ぶことができます。社会人と触れ合うことで、世の中の仕組みや状況を理解することも可能です。その結果、今の自身の立ち位置を理解でき、今後どのような準備をする必要があるのかを理解することができるでしょう。この「日本センター」は既にベトナム・インドでは運営を開始しており、ミャンマーでも早期の実現に向けて動いています。

—ミャンマーでやり遂げたいことは何かありますか?

 大学構内のキャリアセンターで学生と会話を交わし、求職者と面談で話していると、ふとした時に機会に気付き、瞳がキラリと輝く瞬間を見る事があります。ミャンマーには素地のいい学生が多く存在しますが、機会に恵まれなかったり、機会が目の前にありながらも気づかなかったりする人も少なくありません。まずは、日本センターを通じて、教育の機会を提供し、素晴らしい人材が輩出され、その人材が瞳を輝かせながら社会で活躍しているという、そんな社会の実現に貢献したいと思います。


フォースバレーコンシェルジュ Fourth Valley Concierge Corporation
事業内容:HR・人材育成
URL: http://www.4th-valley.com

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