2017年6月22日
−長くミャンマー支援の歴史があるとのことですが。
大雄会では、1998年からミャンマーと関わり続けています。更新を迎えた医療機器の寄贈先として何カ国かを比較検討し、ミャンマーに寄贈をはじめました。当時は、まだミャンマーが急激に発展する様子はなく、寄贈先として1番意味のある国がミャンマーだと判断したのです。それ以来、定期的に医療機器を寄贈し、2003年にはMRIを寄贈しました。「MRIを利用した経験がないためトレーニングを受けたい」との依頼をミャンマー側から受け、同年9月に弊院にて研修を受け入れました。放射線科医と放射線技師が来日した際、研修を担当したことがきっかけで、私自身ミャンマーと関わり始めました。
その後、2003年11月にミャンマー放射線学会に呼ばれて参加し、滞在期間中に医学生向けの講義も行いました。実際にミャンマーで病院を訪れると、そこにはJAPANと書かれ壊れたCTスキャンの機械が捨て置かれていたのを目にしました。到着後1ヶ月ほどで機械が壊れ、修理ノウハウがないため、ゴミ同然の扱いとなっていました。その光景を目にして、ハードの支援もいいが、メンテナンスや修理等のソフト面の支援がより必要だと感じるようになりました。弊院のミャンマー支援も徐々に形を変え、修理やメンテナンス、研修受け入れといったソフト面の支援に切り替えていきました。
私自身2003年のミャンマー渡航以来、毎年のミャンマー放射線学会への出席とそれに合わせた放射線科医学生向けの講義を担当するようになりました。そして2006年7月にはヤンゴン第一医科大学の名誉教授を拝命しました。毎年ミャンマーに足を運び、人材の受け入れや現地の人材育成の形で、ずっとミャンマーと関わり続けてきました。
−2016年1月の診療開始までの経緯は。
弊院の使命は「人類を救う」。つまり、対象は日本のお客様だけではありません。初の海外事業を考える中で、これまで関わってきたミャンマーで事業を展開することになりました。ずっと関わってきた私が適任だろう、との判断でミャンマーの担当者に選ばれました。
立ち上げにあたり、施設の充実度、都市圏からの距離等を考慮しつつ提携先候補となるミャンマーの病院をいくつも回りました。その結果、比較的日本に近しい医療が提供しやすいとの判断で、ビクトリア病院内クリニックレオ・メディケアでの開業が決まりました。私自身、開業経験もなかったため、初めての経験だらけでした。
例えば、日本の医療では、国が診療報酬点数の形で価格を決めています。よって、これまでの医師生活の中で、自分の医療サービスの値段を考えたことはありませんでした。原価計算すら、したことはありません。
しかし、ミャンマーでは自分で自分の医療サービスの値段を設定する必要がありました。仮に医療のためにタイやシンガポールに渡航するとしたら、実際の医療費に加えて交通費と滞在費が掛かりますよね。それをミャンマーで提供できるなら、適正な価値提供なのではないか、と。今までこんなことも考えてなかったのだ、と反省すると同時に、これを契機にモノの価格の高い安いといった感覚も変わったような気がします。今でも、価格に応じたサービスを提供できているのか?不足してはいないか?と1人1人の患者様と向き合い、診療に臨んでいます。
−どんなお客様が多いですか。
現在、弊院の患者様の90%以上が日本人です。残りの10%はミャンマーの方や他の外国の方となっています。来院理由の多くは、下痢や嘔吐、発熱といった症状の消化器系感染症が圧倒的に多いです。原因は、細菌やウイルス等によるものが多く、生モノを避けるだけでも防ぎ切れません。防ぐ方法としては、こまめな手洗いと飲水が効果的ですが、それでも完全に防ぐのは難しいのが実態です。日本とは環境が違い、日本では有効な身体の持つ防衛機能がミャンマーでは効果がないケースがあるためです。
患者様は医療のプロではありませんし、医療通訳の方も医療のプロではありません。よって、日本人にとっては、日本の医師に診てもらう方が、母国での医療事情の理解があるため、スムーズな診療が可能になります。
他の病院に行った後に、当院に来られる患者様も少なくありません。処方された薬を見ると、まったく関係ない薬を処方されているケースもあります。お腹が痛い、と病院を訪問したら盲腸と判断され、すぐに手術をしたが、その後も痛むとの事で来院。蓋を開けてみれば、盲腸ではなかったといったケースもありました。はじめから当院に来ていれば、お金も時間も無駄にならずに済んだのに、と思う事も少なくありません。
弊院に来ていただければ、日本の医師であり、日本の医療の背景をわかっている私が患者様を直接診られますので、日本のお客様にとってのメリットは大きいと感じます。
−ミャンマーの医療における課題は。
脳卒中や急性心筋梗塞等の緊急医療に関しては、今のミャンマーではお手上げ状態です。最大都市のヤンゴンでさえ、実現は難しいとの印象です。緊急医療を維持するためには、病院の負担はかなり大きくなります。医師はもちろん、看護士等が24時間体制でスタンバイする必要があります。また当然、対応するには1人だけでも無理ですので体制の構築は簡単ではありません。
本来であれば、サービスの1つ1つにお金が掛かっているにも関わらず、ミャンマーの方は公立病院での診療が無料となっているのが現状です。高額である必要はありませんが、医療サービスとして、料金を徴収する体制を構築しないと、医療水準の向上にはまだまだ時間が掛かるように思います。この点は、ある意味で寄付文化が深く根付いているから、なのかもしれません。
また学会等の場を通じた横のつながりが薄いのも課題の1つだと感じています。ヤンゴンと他の地域では環境が大きく異なるため、仕方ない部分もあります。しかし、私の知る限りでは、ミャンマーの学会は日本の学会のような機能は持ち合わせていません。誤解を恐れず一言で表現すれば、大きな講演会の域を出ておらず、勉強会といった感じです。参加者の知識欲は高く、学ぶ姿勢は素晴らしいものがありますが、活発な意見交換の場はありません。日本であれば行われるような学会主導による診療ガイドラインの見直しといった機能も今はまだありません。医療をよりよいものに変えていくために本質を理解して柔軟に対応することより、これまでの前例やルールに従うことを優先しているような印象です。
安心して医療を受けられる体制を
−次の一手は。
まだまだ道のりは遠いですが、将来的には大雄会としても、もっと多くの診療科を増やし、より多くの患者様が安心して医療を受けられる体制を整えていきたいと思います。
日本人の方々に対して良質な医療を提供していくことが、当面の課題ではありますが、ゆくゆくはミャンマーの方にも良質な医療サービスが提供していければ、と思っています。
口コミ等を通じて弊院の認知度はあがっており、来院者数も増えています。病院ですから、お目にかからない方がいいわけですが、みなさんによって最適な医療となるよう努めて参りますので、どうか気軽に私たちのクリニックを利用ください。