2017年6月29日
— ミャンマーでビジネスをはじめたきっかけは。
ヤンゴンに来たのは2010年12月。妻が1年半の仕事のオファーを受け、一緒にミャンマーに来ました。旅行以外でエジプトを離れた事もなく、当時はミャンマーがアジアにあることすら知りませんでした。私自身、IT部門のアウトソーシング事業を行う会社を経営していたため、3~4ヶ月毎に行き来しながら生活をしていました。1年半経った頃、娘がこのままヤンゴンに残りたい、と言い出しました。エジプトに比べて、ミャンマーの人はとても優しく、自然も多くて安全で生活もしやすい、と感じていたため、そのままミャンマーに残ることを決めました。エジプトの会社を人に譲り、個人でコンサルティングをしながら、ビジネスの機会を探りはじめたのが2012年です。
元々ITの世界にいましたので、その経験を活かしたIT事業の展開も考えましたが、既にミャンマー国内に競合も多く、市場の状況もなかなか掴めませんでした。そんな中、生活する中で現在のビジネスに繋がる出来事がありました。
駐在生活では、友人家族が集まってパーティーに招待し合う機会があります。私たちはダウンタウンから少し離れた場所に住んでいたため、パーティーの準備1つ取っても大変でした。料理の注文のためだけに中心部に出掛け、その後家に戻る。注文した料理を受け取るためだけにまた出掛ける。往復するだけでもそれなりの時間が掛かります。しかも日に日に渋滞は悪化の一途を辿り、あまりにも非効率だと感じたのと同時に、ウェブを使えば解決できる問題だ、と思い立ったのが現在のビジネスのきっかけです。
—事業内容を教えてください。
料理の配送サービスです。最近では、街中で弊社の配送員を見掛ける事も増えているかと思いますが、レストランからお客様のところまで自転車で料理をお届けしています。発案当初は車での配送を考えていましたが、2013年頃から日に日に渋滞の状況が悪化しはじめたため、車での配送は断念しました。バイクでの配送も考えましたが、ヤンゴン市内はバイクの乗り入れが禁止。そこで、自転車での配送に思い至りました。
ただの配送ではなく、我々の事業には想いが込められており、ノウハウが詰まっています。例えば弊社の配送員は必ずヘルメットを着用し、夜にはライトを点灯し、明るい色の服を身につけ、明るい色の配送ボックスを自転車に搭載しています。自転車に乗る人、車を運転する人の双方に対して安全意識を変えたい、との想いから意図的にデザインしたものです。過去に1件だけ事故があり配送員が病院に運ばれたことがあります。その時、ヘルメットは見事なまでに真っ二つに割れていましたが、幸いにも配送員は無事でした。ヘルメットに救われました。配送の中にも細かなノウハウがたくさん詰まっています。例えば、配送員の訓練には、3ヶ月を掛けています。具体的には、危険な運転をしないよう指導しながら、3週間掛けて徹底的に道を憶えさせます。その後、近い距離から配送を任せ、3ヶ月経ってようやく訓練終了です。
また弊社の中で、道先案内人も育てました。例えば配送員が迷った時に電話で問い合わせれば、時間を見て、どの道が空いているといった情報を踏まえて、道案内をしています。GPSで配送員の居場所が把握できるようになっており、次のオーダー依頼に対応するのに誰がふさわしいかを判断して、指示を出します。配送員の状況はすべて可視化されており、何かがあればすぐにスタッフがフォローできる体制を整えています。
お客様は注文状況がサイトで見えます。サイトを見ていただければわかりますが、オーダーの受付、料理の準備中、配送中といった状況がすべて見えるため、安心して注文することができます。配送員とのやりとりはモバイルアプリを通じてやりとりしますが、時には電話でフォローをしています。通信状況がよくない等の理由で確認ができないことも発生します。そういった場合のルールとして、5分間反応がない場合には電話で確認する等、アナログ対応も交えて対応しています。日々の小さな改善が積み重なり、今のサービスがあります。
-競合もいると思いますが市場環境はどうですか。
2013年10月にサービスを立ち上げ、初日は自らの注文の2件のみでした。1日平均注文数の推移を見ると、2014年12月で約4件、2015年11月で約40件、2016年12月には117件。この1年で大幅に注文数は約3倍に増加しました。2015年までは外国人からの注文がメインでしたが、2016年12月の注文者の割合をみると、外国人が半分、ミャンマー人が半分。いずれのマーケットも大幅に伸びていることが数字からも見て取れます。配送のための自転車の台数も着実に伸びています。事業開始当初の10台から2016年12月には35台、2017年1月16日時点で43台となっています。市場の拡大に伴い、まだまだ増えていくと思います。
料理の配送サービスのマーケットは大きいですし、似たようなサービス、会社もありますが「競合はいない」と考えています。我々はまったく違うフィールドで闘っていると捉えています。我々が考えているのは、「今欲しい、今届ける」に対応するサービスであり、1時間以内の配送が我々のサービスです。このビジネスはそれほど簡単ではありません。我々はマーケットリーダーです。常に考えているのは、いかにサービスをよくするか、いかにいい人材を見つけ出すか、そこに挑戦し続けるだけです。我々には独自の計画があり、もちろん将来の計画もあります。料理配送サービスのモバイルアプリをミャンマーではじめて提供した会社ですし、我々以外にこうしたノウハウを持ち、サービスを行う会社は存在しません。あえて言うならば、ライバルは自分自身です。
-順調そうですが課題は。
やはり人の採用は課題となっています。今日、いい人が100人来たら100人採用したいと思っているくらいです。訓練期間の3ヶ月も必要ですしね。事業を拡大しようと思えば、人の採用が最大の鍵を握ります。社内オペレーションを担当する総務スタッフも配送員もいい人が来てくれれば、すぐに採用したいです。しかし今はまだマンパワーが足りていないため、むしろあまりビジネスを拡げすぎないように気をつけています。
またミャンマーでビジネスをする上では文化理解にも苦労しましたが、その点は、現在オペレーション担当役員を務める社員の通訳に随分と助けられました。彼女は海外での経験はありませんが、英語が堪能で通訳も担当してくれていました。ただの通訳に留まらず、ミャンマーの文化的背景を踏まえた通訳をしてくれ、時に、その伝え方は文化的によくない、と指摘してくれました。未だに議論を交わす事も少なくはありませんが、彼女の存在には大いに助けられましたし、今も助けられています。ミャンマーの文化を尊重せず進めていたら、と思うとゾッとします。
-次の一手は。
現在、弊社が持つ配送のノウハウを応用して、あらゆるものを運べるプラットフォームも構築しています。例えば、ニーズさえあればチケットの販売と配送もできるでしょう。我々の事業を通じて、あらゆるものが運べるようになります。オンラインショッピングの会社等、多くの潜在的ニーズがあると思います。SONICというサービスで展開をスタートしたばかりですが、これまでに蓄積してきたノウハウが、活かせる新サービスです。
今後はヤンゴンだけに留まらず、マンダレー、ネピドーでもサービスを提供しようと動いています。2017年の早い時期にはマンダレーでサービスの提供を開始予定です。その後には、ネピドーでの展開も考えています。どちらの都市でも、電動バイクでのサービス提供を考えています。バイクの方が早く、コストが安いとしても、我々は環境に配慮した電動バイクを選びます。仮にヤンゴンでバイクが解禁されても同じ方法を選ぶつもりです。ミャンマーに住むひとりとして、私はミャンマーが好きで、ミャンマーのことを大切に思っています。決して道端にゴミは捨てませんし、ツバも吐きません。ほんの些細な事に過ぎませんが、少しでもこの国の助けになりたい、と思っています。
-個人的に成し遂げたいことは。
弊社で採用する人材については、民族も宗教も関係ありません。1日に8時間近く一緒の時間を過ごす仲間としてお互いへの尊重の気持ちを育みたい。そうすることでコミュニティを良いものに変えていけると思うからです。ビジネスを進める上でも、お互いに対する尊重は欠かせないと思っています。今のビジネスでいえば、お客様、レストラン、従業員。お金をいただく人だけでなく、すべての関わる人を尊重する必要がある、と思っています。
フェースブック上で2017年の新年メッセージ動画を作成し、各国の言語でメッセージをお届けしました。日本語の「あけましておめでとうございます」も当然入っています。ミャンマーという多様性に富んだ国で、弊社のプラットフォーム上で、みんながオープンになれたら、という思いを込めています。今のミャンマーにはないものが多いです。それは事実です。だからこそ、多くの機会があり、挑戦できるフィールドがあるのです。文句を言う前に、自分でやれることからやればいいのです。ミャンマーがいい国であり続けるために、助けになりたいですし、大海の一滴に過ぎないかもしれませんが、私ができることをやり続けようと思っています。