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業界別インタビュー

2017年6月23日

今ミャンマー人が試されている

通信・IT

アクロクエストミャンマーテクノロジー Acroquest Myanmar Technology
ミャンマー支社長: 寺田 大典 Terada Daisuke
今ミャンマー人が試されている
働きがいのある会社ランキングで2年連続1位を飾り、ユニークな働き方でも注目を浴びるIT企業アクロクエストテクノロジー。2012年5月、同社初の海外拠点はミャンマーだった。2016年11月にはサイボウズ社の業務アプリクラウド「キントーン(kintone)」のミャンマー販売パートナーになるなど、ITを活用した企業の活動支援を行っている。進出当初から代表を務める寺田大典氏に、この5年の変化を踏まえたIT業界の市場環境や課題について話を聞いた。(取材日/2016年12月)
「私が行きたい!」いの一番に立候補してミャンマー赴任

―ミャンマーには立候補で来た、と聞きましたが?

 2012年1月、当社の社員会議の中で海外進出の拠点選定が議題に挙がりました。当社では、社内の方針など多くの事柄を全社員が出席する社員会議で決めています。東南アジア進出に関し、活発な議論が交わされ、会社初の海外進出、 及び その進出先がミャンマーに決まりました。その流れの中で、現地責任者の選定にも話が及び、いの一番に「私が行きたい!」と立候補をさせて頂きました。
 その翌週に「3月に個人でミャンマー視察旅行に行きたい為、1週間休みを下さい。」と会社に申し出たところ、会社からは「もう1週間現地に滞在して、会社設立時の初期スタッフの面談を実施してくれ。」と依頼を受けました。
 ミャンマー行きを決めると共に、すぐにスタッフ採用に向けた面接手配や会社設立に関する情報収集を行いました。2012年3月、はじめてミャンマーに渡航し、1週間の旅行後、残りの1週間で面談や会社設立の準備をしました。滞在中に、試験を通過したミャンマー人30人以上と面接を行い、5人の採用を決定しています。その後、2012年5月から正式にミャンマーに赴任し、事業を開始し、一気に動き出しました。最初は、ホテル住まいで、自宅も決まっておらず、オフィスも別の会社のオフィスを間借りしている状態でした。

ITシステムを活用した企業活動の支援

―ミャンマーではどのような事業を展開していますか?

 私達は、日本に対するソフトウェア開発も行っていますが、ミャンマーでは「ITシステムにより経営/業務の効率化を支援し、『その道のプロにしかできないこと』に注力してビジネスを成功させる」というビジネス環境の実現の支援をしたいと考えています。そのために、当社は、企業活動を支援するITシステムの開発/提供を行っています。
 現在まで、日本に対するオフショア開発事業に加えて、2014年からミャンマー国内でのソフトウェア開発業務も少しずつ広がっています。
 直近では、2016年11月よりサイボウズ社の業務アプリクラウド「キントーン(kintone)」のミャンマー販売パートナーとなりました。忙しい駐在員の方々を支援させて頂くべく、業務効率化に役立つクラウドサービスを、ミャンマーでも活用できる体制が整いました。まだ販売は始まったばかりですが、多くのお客様に興味を持って頂いております。ユーザー間の情報交換や効果的な活用方法の共有等も計画しており、サポート体制も充実させていきます。
 また、ミャンマーでの企業マーケティングに活かせる情報提供サービスも展開しており、時間毎の人の動きの流れに関するデータやアンケート情報などの提供が可能です。飲食店や大型施設の出店場所や、イベント開催場所の選定に有効なデータとなっています。例えば、時間帯での人が集まる場所の推移や、同じ場所でも乾季と雨季でヤンゴンでの人々の動きがどのように違うか、といったデータの提供が可能です。集客が重要となる事業には有益な情報だと考えています。こうしたデータを通じた企業活動の支援も行っています。

―2012年からミャンマーはどう変わっていますか?

 通信環境1つとっても、2012年に私がミャンマーに来た時からかなり改善しましたし、早いスピードで今も改善し続けています。2012年当時、SIMカードだけで約2万5千円でした。通信速度を見ても、メールチェックがギリギリできるレベルでした。それが2016年の夏にはLTEが動き出し、シムカードは約150円になっています。携帯電話本体は、決して安くはありませんが、ヤンゴンの人々の多くがスマホを手にするようになり、大きく環境が変わっています。これは1つの側面に過ぎませんが、モバイル通信環境については、更に発展していくでしょう。
 日本のインフラ環境とは異なる進化が起こる兆しもあります。例えば、ミャンマー企業から相談を受けたある開発案件の話です。それは、従業員がモバイル端末でデータを入力し、管理者もモバイル端末だけで入力されたデータを確認/管理できるシステムを利用したい、との依頼でした。既にヤンゴンでもパソコンを介さず、モバイル端末だけで仕事をする前提の話が出ているのです。こうした話を聞いていると、パソコンでの仕事をするのではなく、モバイル端末を利用した仕事のやり方が一気に導入されていく気がしています。
 また、ミャンマーでは、日本未発表の欧米発サービスがサービスを既に開始しており、東南アジア発のサービスが日常的に使われています。そうしたサービスの中には、日本のサービスを追い越してしまっているものもあります。IT業界は、日本のサービスが常に最も進んでいるわけではありません。その為、日本のものを持ってくれば流行るだろう、という考えだけではなく、世界やアジアのサービスを知る必要があるのが現状です。また、携帯アプリでも、日本とは通信速度も異なり、スムーズに利用するには対応が必要になるなど、いいものを持ってくるだけではうまくいかない難しさもあります。市場予測の難しさを感じている一方で、だからこそ面白い、とも感じています。

雑務に追われ、本業に注力できない駐在員を後方支援

―サービス提供にあたって課題はどこにありますか?

 2016年11月から業務アプリクラウド「キントーン(kintone)」の販売を開始し、マーケットのポテンシャルを感じると同時に課題も感じています。そもそも業務のIT化は効率化を主目的としています。ミャンマーの場合は、その効率化の前に業務のプロセス化が必要だと再認識しています。例えば、ミャンマーの役所などで、窓口担当者によって同じ業務のやり方が違うことも、あまり驚く事ではない日常です。各業務に対して、その場の思いつきで対処するだけで、プロセスが規定されていないため、こうした事態が発生しているのです。プロセスが規定されれば、手順や確認の手法が統一でき、ミスが減り、習熟が力となり、作業スピードが上がります。プロセス化が進めば、IT化での効率化の効果も更に高くなります。しかし、多くの企業においては、まずプロセス化が必要な段階という課題があると感じています。
 プロセス化、それからの業務のIT化、いずれにおいても業務アプリクラウド「キントーン(kintone)」は、お役に立てると思います。
 ヤンゴンで駐在者として仕事をしていて、多くの方とお話をしていると、あれもこれも駐在員の方が一人で抱え込んでいるケースは結構多いです。駐在員が、大量のEXCELと格闘しながら、営業関係の情報から、社員の給与、勤怠、教育、それから交通費精算の管理までしていたりします。業務のプロセス化、IT化が出来ていないので、業務をスタッフに分担できず、小さな雑務の積み重ねに追われているとの相談をよく受けます。ミャンマースタッフに任せるとEXCELを壊すので、任せられないという方も多いです。逆に、業務をプロセス化、IT化できれば、忙しい駐在員の方から各業務を部下に権限委譲していく事も簡単です。小さな権限委譲を積み重ねることで、これまで以上に時間を有効活用できるようになり、本来の事業活動に注力できるようになるでしょう。「雑務に追われて本業に注力できない」という多くの駐在員の方の悩みは、私も抱いていたものです。そうしたヤンゴンでビジネスを進める方々の悩みの解決が、我々の強みであるITを通じて可能だと考えています。
 「キントーン(kintone)」の販売を開始して1ヶ月半ほどですが、既に5社が導入を開始し、十数社に試用頂いています。(※2017年2月で15社が導入)今後は、好事例の共有やユーザー会の開催等を通じて、ミャンマーの地でのビジネスを進める大変さを簡便にする為の駐在員業務の業務ノウハウを集合知できれば、と考えています。また、それ以外でも、様々なカタチで皆様の事業活動を支援させていただければ、と考えています。

東南アジア展開に向け、ミャンマー人リーダーを育てたい

―IT業界でも人材確保が難しくなっている、と聞きますが?

 人材の確保は、2012年に比べて難しくなっています。給料の高騰や人材獲得競争の激化も始まっています。それ自体は当たり前の話ですし、少し大きな視点で考えると、今は、ミャンマー人の本当の力が試されるタイミングだと感じています。
 ミャンマーで、IT企業に関わらず、社長以外のマネージャーがすべて外国人であるミャンマー企業は少なくありません。また英語ができ、一定水準以上のスキルを持つ人材を見ると、ベトナム人の方がミャンマー人より給料が安い、といった逆転現象も始まっています。ミャンマー人がレベルアップしなければ、管理職は東南アジアの別の国から来た人材で、ミャンマー人はメンバーレベルの仕事しか割り振られないという事にもなりかねません。ミャンマーの人が、現状のまま目の前の給料アップだけを考え、スキルを向上させずにジョブホップし続けると、この予想は現実になるでしょう。
 東南アジア全域で考えると、一部業種は、費用対効果が釣り合わないレベルまで、給料が高騰してきています。そのため、今はミャンマーの人の本当の力が試されている、と感じています。
 当社では、スタッフにグローバルスタンダードを伝える為の様々な取り組みを社内で行っています。例えば、日本のインド人リーダーとミャンマースタッフとのSkypeミーティングをした事があります。インド人リーダーは、比較的英語の発音も綺麗で流暢且つ、英語で議論が出来る方でしたので、当社のスタッフとの実際の業務ミーティングを行い、その様子を全社員に共有しました。当社のスタッフの若いスタッフの多くは、今まで社内でミャンマー人同士で話していた英語との違いを、まざまざと見せつけられた様子でした。「このレベルが求められている」とミャンマー人スタッフには強く刺さったと思います。こうした取り組みなどを通じて「自分の頭で考えることができ、スキルがあり、結果に対する責任感の強い人材」を育てていきたいです。私も長年ミャンマーで仕事をさせて貰っていて、可能であれば、ミャンマーの人達から管理職として仕事が出来る優秀な人材を育てることで、ミャンマーに恩返しをしたいとも考えています。

―ミャンマーで成し遂げたい事は?

 当社は、もともと東南アジアへのビジネス展開を睨んでミャンマーに進出しました。ミャンマーでのビジネスはゴールではなくその将来へのスタートです。しかし、ミャンマーオフィスのビジネス基盤が固まらないと、次の一手も打てません。ミャンマーでの地盤を固めつつ、その先の展開に向けても着手していきたい、と考えています。
 そのための直近の課題は、上司不在でもマネジメント業務を進められるミャンマー人リーダーの育成です。最近は、お客様先に赴くスタッフも増えてきて、スキルと責任感を高めるための教育にも力を入れています。
 繰り返しにはなりますが「ミャンマービジネスを任せられ、自自分の頭で考えることができ、スキルがあり、結果に対する責任感の強いリーダー」を育てあげる。これが今、私の成し遂げたいことですね。


アクロクエストミャンマーテクノロジー Acroquest Myanmar Technology
事業内容:通信・IT
URL: http://www.acromyanmar.com

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