2016/12/14
(前回の続き)
――外国人医師の需要と、現在の数について教えてください
林祥史(以下、林) 弊院の場合は日本人医師4人、カンボジア人医師6人の構成です。日本人に限らず、カンボジアで働いている外国人医師はそれなりにいます。一番の理由は、先進国の医師免許であれば届け出をして認められれば働いていいというルールだからです。国としても、来てもらえるよう推奨しています。ただ語学が大変で、カンボジア人を相手にクメール語を話せる外国人医師というのはほとんどおらず、病院が通訳をつけるなどしてアシストします。
――需要が満たされるだけの外国人医師はいるのでしょうか
林 やはり病院・クリニックあっての医療ですので、外国人が働く病院のニーズとしてはまだまだあると思います。韓国や他国の病院も進出を検討しているという話は聞きます。カンボジアの経済が伸びてきて、お金を払える人は増加しているが、行きたい病院がまだ無い状況なのでしょう。
――カンボジアの医療環境改善のために国内で行われている取り組みはありますか
林 日本からは、JICAやNGO団体の医療改善支援がたくさん入っています。プノンペンですと、母子保健センターという、産婦人科と小児科のセンターはJICAの支援で運営されており、貧しい人々のためにほぼ無料です。JICA以外にも、ジャパンハートというNGO団体も プノンペンから2時間ほど離れたところで無料の病院を作っています。我々は民間なのでお金を取らなければいけませんが、本当にお金を払えないという患者さんはJICAやそういったNGO団体などがカバーしてくれています。
(基本的には保健省が運営しているのを、JICAのシニアボランティアさんが1人赴任して入っておられるので、人員育成もされていると思います。→ 分かり難いので削除)→ 保健省が運営している施設に、JICAのボランティアさんが赴任し、人員育成に力をいれる取り組みもあるかと思います。日本以外にも、海外からの支援もたくさん入っています。もともとフランス領でしたから、フランス系の医療支援が一番多いです。
――カンボジアで流行している病気と、その予防策はなんでしょうか
林 雨季の時期、一番怖いのはデング熱です。カンボジア保健省もいま流行の注意喚起をしています。蚊に刺された時、蚊の中にウイルスがいるとデング熱になります。症状としては、高熱、頭痛、関節痛、吐き気などでインフルエンザに似ていますが、特に頭痛がインフルエンザより酷いです。軽症の場合は放っておいても治りますが、重症の場合は出血しやすくなるという怖い症状が出る場合もありますので、まず受診してください。プノンペンにも水たまりが多いですから、都会でもこの時期は蚊除けスプレーをしっかりしましょう。
季節に関わらず、食中毒も要注意です。やはり日本の衛生状況と違うので、水とか火の通りが甘いとなりやすいです。私もよくなります。軽症であれば水分をしっかりとって休んでいればいいのですが、重症の場合は点滴が必要になったりするので気をつけてください。
予防接種も、外務省が推奨する項目はしたほうがいいです。A型肝炎、狂犬病、破傷風はカンボジアでもできるところはありますので、少なくともこの3つはしておきましょう。弊院も予防接種対応予定です。狂犬病については、ワクチンを打っていれば大丈夫ですが、犬が多いですし病気を持っている犬もいると思うので、正確なデータが出ていない以上、都市部でも噛まれないように気を付けたほうがいいです。命にかかわる病気ですから、一番ワクチンを打ったほうがいいかも知れません。
――産婦人科・小児科へのアクセスはどうなっていますか
林 産婦人科は、民間病院で外資系を含めてやっているところはいくつかあります。そういったところであれば日本と同等レベルで、帝王切開しなければならないとなった場合でも緊急で対応してくれると聞いています。国立のカンボジア人向けの病院は衛生面など心配ですが、外資系の民間の病院であればしっかり対応してくれるそうです。
ただ、新生児の医療という部分では、日本の新生児医療は世界一なので、日本と同レベルとは思わないほうがいいでしょう。通常の小児科に関しては、クリニックとか民間病院があるとは思いますが、すべてを診れるわけではありません。重症であれば我々も日本の病院に紹介しないといけない場合もあると想定しています。ただ、一般的にかかる病気の薬に関してはこちらでも手に入りますし、子どもが病気になったら助からないからカンボジアには住めない、などといったことはありません。弊院は小児科は標榜していないので専門の先生はおりませんが、救急の先生は小児も対応していますので、何かあればもちろん受け付けます。
――カンボジアの将来的な医療事情はどうなると思いますか
林 まだまだ病院も医師もニーズがある状況ですので、私たちのような病院がもっと増えていくのではないでしょうか。民間でも質の高い医療をカンボジアで提供できるようになると思います。
一方で貧しい人はまだ多く、国民皆保険などの制度ができればいいと思うのですが、そういう部分はJICA含むボランティアベースで支える部分があるでしょう。我々も民間ですが貧しい人のための基金を作り、そちらの方から診るという体制を予定しています。民間の病院がどんどん来てきちんとした医療が提供できるとなれば、貧しい人にも還元できると思います。そのように、少しずつ医療の水準が上がっていくことを期待します。
――貴院の将来的な展望をお聞かせください
林 7年間のプロジェクトでしたが、9月に開院式典を執り行うことができました。もし多くの患者さんに来ていただけるとなれば、次のステージとして最初の50床から200床までに増床したいと考えています。その時には、総合病院として全科を見られるような体制にします。一方でやはり、基金から貧しい人を診るなど、なるべく多くの人を診る方向に広げることも考えています。
もう1つ大切なのは教育で、私たちも一緒に働きながらカンボジア人医療者を教育していきます。一般市民の皆さんへの医療教育も大事だと思っていますので、そこも活動していくうちに広げる予定です。
(取材日2016年8月)